( ´∀`)星の海で釣るようです
釣れますか、と男が聞いた。
柔和な顔立ちをしたその男は、天の川にぶら下げた釣竿を、揺らしながら笑う。
僕はその問いには答えず、曖昧に微笑んだ。
( ´∀`)「七夕に願いが叶うなんて、壮大な釣りもあったものですねえ、……ああほら、こんなに釣れている」
星の海の中、キラキラとした星屑に混じって釣れたのは、沢山の願い事。人々の願い。
まったく人間とは欲張りなものです、と男は笑った。
短冊は大きな束となって糸の先で揺らめいている。僕はその願いを見つめながら、そうですね、とだけ答えた。
( ´∀`)「今年も、乙姫様と彦星様は、無事会えたんですかねえ? 生憎の空ですが」
ちょっと曇りがかった上を見上げて、男は呟いた。
どうでしょうね、案外二人は上手くいってないのかもしれませんよ。
( ´∀`)「……はて、どうしてそう思います?」
だって、年に一回しか逢えないなんて、愛が冷めてしまいそうじゃないですか。女性は移り気ですからね。おまけにわがままだ。
そういうと、男は意味ありげな視線を僕へと寄越した。居心地の悪さに目を逸らしつつ、僕は自分の釣竿を揺らす。
……ああ、また釣れた。
( ´∀`)「お兄さん、人の願いっていうのは、叶いませんね」
……唐突に何を言い出すんですか?
( ´∀`)「まぁ、聞いてください。叶わなくて当たり前なんですよ、願いって言うのは、自分で叶えてこそですから
逆にこんなんで叶ったら努力している人があまりにも報われない、……そう思いませんか?」
僕はそれになんて答えていいのかわからず、自分の釣竿にかかった短冊に目線を泳がせていた。
そこには壮大だったり、ささやかだったり、切実だったりと様々な願いが込められている。
( ´∀`)「だからね、お兄さん、努力すべきなんです。こんな紙切れに願ったところで何になります?
せいぜい私のような輩が釣ってお仕舞いですよ、自分の力で、頑張りなさい、そう言ってやりたくなるのです」
( ´∀`)「ねぇ、だから貴方もこんなところで油売ってないで、頑張りなさいよ、彦星様」
( ^ω^)「…………」
( ´∀`)「織姫様と、喧嘩でもしたんですか? 女性は移り気なんでしょう、ちゃんと捕まえておかないと、お星様みたいに流れてしまいますよ」
( ^ω^)「…………!」
男は笑う。会ってからずっと微笑みを絶やさない彼に、僕も、小さく笑みを返した。
確かに、彼女はちゃんと捕まえておかないと流れてしまいそうだ。
それも飛びっきりの速さで。そうなったら大変だな。僕は立ち上がると、持っていた釣竿から短冊を外した。
( ^ω^)「ちょっと、寂しくて……つい、言っちゃっただけなんですお、やっぱり、迎えに行きます。……ありがとうございましたお」
( ´∀`)「ええ、それがいいです、私はもう少し、ここで釣りを楽しみますよ」
そう言って男は手を振った。僕はそれに答えると歩きながら釣った短冊を、天の川へと返していく。
こうすればいずれ、願いは星となりまた地上へと流れていくだろう。その流星群は、人々に少しだけ夢を与えてくれるだろう。
輝く星屑の海の中、流れる短冊が一枚、二枚……
( ^ω^)「これが最後かお」
紫色の短冊は、星の光で淡く煌いていた。
これもまた、誰かが込めた願いの結晶。僕に願いを叶えることなど出来ないし、自分のことで精一杯だけど
叶うといいね、と思いながらその短冊を見た。
短冊にはこう書かれている。
『 有希(俺の嫁)が早く画面から出てきますように
( 芸) 』
( ^ω^)「ふふっ……」
僕は短冊にそっと手を置き
( ゚ω゚)「そぉい!!」
そして二つに引き裂いた。特に理由はない。
( ^ω^)「ツン、待っててくれお……!」
そしてその破片を雲の中に沈めると、彼女の元へと走りだした。
君はなんて言うだろう、頬を膨らませながら、怒りながら、それでもちょっとだけ嬉しそうに遅い!とか言うのだろうか。
そんな君が、僕は好きだお。
溢れる星の中、天の川だけが何処までも続いていた。
終わり