七夕の空の下のようです

 
ζ(゚、゚*ζ 「お〜もいでのまち〜あたら〜しいひざしが〜♪」
 
深呼吸を1つ、空を見上げてみた。
青い空に白い雲、7月にしては穏やかな日差しの空は清々しく視界いっぱいに広がる。
 
ζ(゚、゚*ζ 「待ち人来ず……か……」
 
腕にはめた銀色の時計を確認してみると約束の時間から既に30分は経過している。
どうやらすっぽかされた様だ。
 
ζ(゚、゚*ζ 「まあ、それも仕方がないけどね」
 
私はくるりとその場で一回転し、周りを見回した。
同じ様に誰かを待つ人々は多数だが、私の方へ向かって駆けて来る様な人影は見当たらない。
 
ζ(゚、゚*ζ 「……諦めますか」
 
飽きっぽい私にしてはよく持った方だ。
30分以上待つ事も、あの人と付き合う事も。
 
どうせ終わらせるなら、綺麗に終わらせたかったけど、どうやらこのまま自然消滅という形になりそうだ。
 
ζ(゚ー゚*ζ 「よし、おしまい!」
 
そう声高らかに宣言すると、周りのご同輩方から訝しげな視線を向けられているのがわかった。
どうせもう、この場を去るのだ。細かい事は気にしない。
変人扱いのついでに、場所を借りたお礼とお別れをランドマークの芸芸像に投げかける。
 
ヾζ(゚ー゚*ζ 「どうもでした&まったねー」
 
     (芸)/
     <□
     /|
 
吹っ切れた私には、人々の視線も気にならない。
そのまま人通りの多い通りを歩いて行く。
 
角を曲がり通りを突っ切りスクランブルを渡る。
どこにこれだけの人がいたのかわからないくらい混み合った横断歩道。
 
ζ(゚、゚*ζ 「まあ、こんだけ人がいても、来て欲しかった人はいないんだけどね」
 
おっと、まだ吹っ切れてないんじゃない?
失敗、失敗。
 
私は大きく腕を振り、人々の迷惑そうな視線を掻い潜りながら渡り切った。
 
ζ(゚、゚*ζ「そういえば今日は七夕だっけ」
 
1年に1度だけ、織姫と彦星が会える逢瀬の日に消えてしまう恋なんて皮肉なものだ。
そんなイベント、全く意識してなかったけど。
 
ζ(゚、゚*ζ「笹のイルミネーションなんて見ないしね」
 
これがクリスマスなら、道端の街路樹にモールやら鈴やら星やらぶら下がってたりしてるものだ。
 
ζ(゚、゚*ζ「クリスマスより恋人の日って感じがするのにね」
 
日本古来より伝わる伝承で、その中身もまさしく恋人の日と呼ぶに相応しいものだ。
だのにどうして、舶来品で歴史も浅いクリスマスがこうももてはやされて、七夕はないがしろなんだろうか。
 
ζ(゚ー゚*ζ「きっと暑いからかな」
 
恋人同士がくっつくには、暑い季節は向かないからかもしれない。
そう言いながら、私は反射的に左側に首を向けていた。
 
ζ(゚、゚*ζ「あーあ……」
 
立ち止まり、何とも言えない後悔の呟きを漏らす。
あの人がいたら、今の論法は軽く一蹴されてしまっただろう。
理屈っぽいあの人は、私のフィーリング全開な持論を、瞬く間に事実を踏まえた常識で塗り替えてくれた。
 
ζ(゚、゚*ζ「チクショーめ、吹っ切ったんじゃなかったんでぃすか〜?」
 
私は一つ深呼吸をして、空を眺めた。
青い空は今夜行われる恋人の逢瀬の成就を祝福している。
 
ζ(-、-*ζ「……」
 
このまま振り向けば、あの人がそこにいるような気がしてならない。
でもそれは、単に私の願望なだけで、現実はそう甘くはないのだ。
 
ζ(-、-*ζ「それでも……振り向きたいなぁー」
 
私は──
 
ζ(゚ー゚*ζ「いよっし、帰ろ!」
 
振り向かずに歩き出した。
人通りの多い道を、まっすぐに、ゆっくり。
 
私は、ちょっと急ぎ過ぎたのかもしれない。
織姫と彦星みたいに年に1度しか会えなくても、彼女達はずっと恋人同士でいられるのだから。
 
ζ(゚ー゚*ζ「折角だから、笹でも買って帰るかな」
 
また素敵な恋が出来るように、幸せな恋人の日を1人寂しく祝福してあげよう。

 − おしまい −             (※作中引用&参考 ♪今日は…こんなに元気です)

 

 

戻る

inserted by FC2 system