特に何もない七夕のようです

( 芸)『ゲイちゃんの男気☆天気予報〜♪』

( 芸)『今日は全国的に一日中雨! じめじめするわよ♪』

 妙に身体をくねらせながらしゃべる天気予報士(男)の声を聞き、僕は溜息を吐いた。

( ^ω^) はぁ……

 今日は七月七日。世間一般でいう、七夕の日だ。
 一年に一度、天の川で隔てられた織姫星と彦星が再会を果たすという日。
 ベガとアルタイルが何光年離れているか知らないが、愛の前には距離など無関係らしい。

ξ゚听)ξ 何を辛気臭い溜息をついてるのよ、あんたは

( ^ω^) だって今日は七夕だお、それなのに雨だなんて……

 僕の恋人であるところのツンが、テレビから視線を外して、不思議そうにこっちを見た。
 すぐ隣でそんな挙動をするものだから、彼女の巻き髪が僕の顔にかかる。

ξ゚听)ξ 空の上にいるんだから地上の天気なんて関係ないんじゃないかしら

( ^ω^) 気分的なもんだお

 こてん、とツンは僕の肩に頭をのっけた。甘い香りが鼻腔をくすぐる。

( ^ω^) 知ってるかお? 今年は月の影響で、天の川はほとんど見えないらしいお

ξ゚听)ξ そうなの? どちらにせよこの天気じゃ、星すら見えそうにないけどね

( ^ω^) 風流もなにもあったもんじゃないお。雲が恨めしい

 柱時計が八つ鐘を打ち、僕が出発しなければならない時刻を示した。

ξ゚听)ξ さ、今日も仕事頑張ってね!

* * *

 僕のデスクは窓際にあり、仕事中だろうと否応なく外の天気が目に入る。
 朝の天気予報通り――暗い雲と陰鬱な雨が、空を彩っていた。

( ^ω^)

 ふと外を見る。
 一年に一度しか会えない夫婦は今頃、どんなふうに逢瀬の時を過ごしているのだろう。
 そんな想像をしていると、顔に傷のある上司に頭を掴まれた。

ξ ナ匚゙)ξ 仕事中にたそがれてるんじゃねえよグズが……!

(;^ω^) あいたたたたたたたたたたた!

 強制的に首を回され、僕の意識は再びデスクワークに戻る。

ξ ナ匚゙)ξ そういやぁ、今日は七夕だったな

( ^ω^) お、ナギさんでもそういうロマンチックなこと言うんですかお

ξ ナ匚゙)ξ 俺をなんだと思ってるんだ。クリスマスにはケーキも買うさ

 その似合わない言葉に思わず噴き出すと、頭頂部を拳骨で殴られた。

* * *

( ^ω^) ただいまだおー

ξ゚听)ξ あ、おかえりなさい

 なんとも言えない良い匂いが、玄関に入った僕を包み込んだ。
 ダイニングキッチンまで足を運ぶと、その香りの主がテーブルに並んでいた。

オム*゚ー゚)   (゚ー゚*オム

( ^ω^) おー、今日の夕飯はオムライスかお。美味しそうだお

ξ゚听)ξ さ、食べる前にスーツ脱いで、手を洗ってきなさい

( ^ω^) アイアイサッ


 手を洗っている途中、窓を叩いていた雨粒の音がだんだんと小さくなっていった。
 外を眺めたが、すっかり日は落ちてしまっていて、よくわからない。

ξ*゚听)ξ ブーン! ちょっとベランダに来て!

( ^ω^) おっ? ゴキブリでも出たかお?

 妻の悲鳴にも似た叫び声を聞き、僕は慌てて手を拭いてベランダへ向かう。

 ベランダに辿り着いてみれば、ツンはベランダの手摺から身を乗り出し、夜空を見上げていた。

ξ*゚听)ξ ほら! ブーン! 天の川だよ!

 興奮した様子の彼女は精一杯腕を伸ばし、雲の切れ間を指差した。
 黒く重い雲が途切れた隙間には――星の砂をばら撒いたような、美しい銀河が広がっていた。

ξ*゚听)ξ 綺麗……。来年も、一緒に見ようね!

( ^ω^) もちろんだお、ツン。来年も再来年も、十年後も二十年後も、一緒に見るお!

 雲が月を隠したことで、偶然天の川が見えるようになったらしい。
 たまには雲も役に立つな――そう思って、僕は、ツンに寄り添った。

 

 

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