('A`)天の川の星には重かったようです

今日もいつもと変わらない日。日付は7月7日だったけど、七夕の風習なんて幼少期を過ぎた俺には関係ない。
今更短冊に願い事をしたためるなんてことはしないし、そんなことで天に願いは届かないことも知っている。

('A`)「というわけで、俺は七夕とは無関係に出始めのスイカを齧るのであった。しゃくしゃく」

俺の家は古式正しい日本家屋で、縁側なんて代物がありやがる。
気の早いうちの婆さんが早くも吊るした風鈴の音を聞きながら、俺は庭に面したそこに腰かけていた。
もうすっかり日が長くなってしまった。7時前だと言うのに、まだ空はうっすらと夕日色が残っている。
半月型のスイカと塩の瓶を盆にのせて持って来てくれた婆さんも、さっきまで並んで腰かけていたのだが、
回覧板を回すのを忘れていたと外に出てしまった。二人暮らしの我が家は、片方が居なくなると急にしんと静かになる。
風鈴の音ばかりが空気に震えて響く。風流だけれど、なんとなく心細い音に聞こえる。

('A`)「七夕かあ……」

家をでしなに、婆さんが「今日は七夕だね」などと言っていくものだから、いろいろ思いだしてしまった。
それまで、今日が7月7日だってことすら忘れていたのに。

('A`)「一度だけ、婆さんが笹を貰ってきてくれたことがあったな」

幼いころの思い出だ。その頃から婆さんと二人暮らしだった俺は、本当に願いがかなうと思って書いたものだ。

『とーちゃんとかーちゃんと一緒に暮らせますように』

その短冊を見たとき、いったい婆さんはどう思ったのだろう。
何も知らない孫の無垢さに、心を痛めたのだろうか。

本人に聞いていないのだから、確かめようもないが。
ぼやっとそんなことを考えていたら、玄関の引き戸がガラガラと開いて、挨拶もなしに上がり込んでくる足音が聞こえた。
婆さんののんびりした足音じゃない。なんともせわしない、若い足音だ。

ξ゚听)ξ「ちわ。ペニさんがスイカあるって言うから来たわ」

('A`)「玄関入った時点で挨拶くらいしろよ。非常識な」

騒々しく隣に腰かけたこいつは、お隣さん兼学校の同級生のツンだ。
小学校の頃からずっと同じ学校に通っていて、いわゆる幼馴染と言う奴だが、学校ではあまり会話はない。
家ではずけずけと物を言うくせに、世間では猫を被っているような奴なのだ。

ξ゚听)ξ「私の分は?」

('A`)「ねえよ。自分で切ってこい」

ξ゚听)ξ「嫌よ面倒くさい。半分寄越しなさい」

ツンは俺からスイカを奪い取って器用に半分に割りやがり、俺の齧りかけの部分も気にせずに、しゃくしゃくと食べ始めた。なんとも豪快な奴。

ξ゚听)ξ「あれ、ドクオの家、笹飾って無いの?」

('A`)「あのなあ、今さら七夕様もないだろう。近所でもあんなバカでかい笹飾ってるの、お前の家くらいだぞ」

こいつの家の笹のでかさときたら、毎年庭の塀からはみ出しているほどだ。それもごてごてと飾りをつけまくった豪華仕様。
もちろん短冊だって何十枚もぶら下がっている。何をそんなに願うことがあるのだろうか。強欲な一家め。

ξ゚听)ξ「だって、せっかくの七夕じゃない。願い事しないと損よ」

('A`)「どうせ叶わないんだから、意味ないよ」

ξ゚听)ξ「叶うわよ。あんたね、天の川がいくつの星で出来てると思ってるの」

('A`)「知らない。いくつあるんだあれ」

ξ゚听)ξ「たくさんよ」

どうやら詳しくは知らないらしいけど、ツンは胸(殆ど無い)を張って堂々としていた。

ξ゚听)ξ「あんただって流れ星を見たら、願いの一つも呟きたくなるでしょ?
      あれだけ沢山あるんだから、一つの星には重すぎるような、いっぱいででっかい願い事だってきっと叶うわよ」

('A`)「小さい頃の俺の願いは叶わなかったけどな。いっぱいではないけど、子どもなりのでっかい願いは、叶わなかった」

ξ゚听)ξ「小さい頃? あんた何願ったの?」

('A`)「答えたくない」

ξ゚听)ξ「ふーん。ま、いいわ。想像付くしね。じゃあ今の願いは? 今の願い事、言ってみなさい」

願い、と繰り返すツンの言葉は、有無を言わせない迫力があった。

('A`)「家族が欲しいかな。いつまでも婆さんと二人じゃ、寂しいし」

それは幼いころの願いと似た、けれど、子どもの頃よりはちょっとだけ現実的な願い。そして、ああ、とツンはしたり顔をした。

ξ゚ー゚)ξ「家族ねえ。それは天の川の星全部つぎ込んでも足りないくらい、でっかい願いね」

('A`)「なんだよ。やっぱり叶わないじゃないか」

ξ゚ー゚)ξ「だから、あたしが叶えてあげないこともないわよ? ドクオが社会に出たら、結婚してあげる。これでこの家は三人家族ね」

('A`)「はあ?」

そういえば俺たちは幼馴染特有の、幼いころの結婚の約束、という通過儀礼を行っていなかった。けれど、何もこんな歳になってしなくても良いのに。
こんな歳になったら、本気にしてしまうではないか。俺はあえて冗談めかして言う。

('A`)「イラネ」

ξ#゚ー゚)ξ「照れるなって」

(;'A`)「っぐええツンさん笑顔のまんま首締めないでくださあばば」

首を絞めている間も顔が赤かったツンが、本気だったかどうかはよく分からないけれど、七夕の夜は騒々しく過ぎていった。

 

 

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