カササギの架け橋のようです

今日が七夕なんてことは、街で屈強な大男に声をかけられるまで忘れていた。
幼い頃は願い事を短冊に書いて、笹にぶら下げるのが好きだった。
それなのに、いつの間にか童心なんてものは消え失せてしまった。

大人になるにつれ、明るかった僕は根暗な性格になり、引きこもりがちになった。
嫌なことがあったから……。

仕事帰り、煌びやかな街のアーケードを歩いていると、平安時代を思わせる豪奢な装束を着た大男に声をかけられた。

( ゚∋゚)「お兄さん、願い事書いていかない?」

('A`)「え……?」

見れば、大男の横には大きな笹飾り、その横には「七夕」と大きく書かれた幟がはためいていた。
それを見て、ああ今日は七月七日だったな、と思い至った。

( ゚∋゚)「願い事、叶いますよ」

('A`)「はは、それじゃ書いていこうかな」

短冊受け取り、願い事を書いた。
悩んだ末に書いた言葉は……「クーに会いたい」だった。
会えるわけもないのに、それでも今の僕は願ってしまった。

背の高い笹に短冊を結びつけるとき、見上げた空にはひときわ眩い光を放つ星が見えた。
僕はその場から去ったが、後ろからかけられた「お幸せに」という声は聞こえなかった。

家に着いた。玄関の扉を開くと、暗いはずの室内が何故か明るかった。
そして、リビングに居たのは──

('A`)「…………クー?」

川 ゚ -゚)「おかえり、ドクオ」

どうして? どうしてクーが居るんだ? 君はもう……。

川 ゚ー゚)「私達を巡り合わせてくれた者がいるんだ、君が望んだから」

( ;A )「クー……!」

よろよろとクーに近づく、昔の姿のまま目の前に居るのが信じられなくて。
だけど本当に居て、僕は確かに彼女を抱きしめた。

川 ゚ー゚)「久しぶり」

(;A;)「久しぶり……」

僕は動揺した、懐かしさとか悲しさとか、色んな感情がごちゃ混ぜになって涙が零れた。
記憶の奥底にしまい込んだ思い出が、胸を突き刺す。

(;A;)「どうして……クーが居るんだ?」

彼女は昔のまま、幼さの残る容姿だった。
艶のあるロングの黒髪は腰まで届き、僕は彼女の髪が好きだった。

川 ゚ -゚)「ドクオが望んだから、願いが叶ったんだ」

(;A;)「そんなことが……」

「願い事、叶いますよ」、そう言った大男を思い出した。
まさか、本当に願いが叶ったのか、信じられない……。
僕は涙をぬぐい、しっかりと彼女を見つめた。

川 ゚ -゚)「今日限りだけどな……」

('A`)「今日……」

リビングのテーブルに置いている時計を見ると、時刻は二十時を過ぎていた。
あと四時間もしないうちに、居なくなってしまうのか……?

川 ゚ -゚)「ドクオ、こうして再び会えたんだ。悔いのないように話をしよう」

('A`)「うん……」

川 ゚ -゚)「ドクオは……私が死んでから塞ぎ込んでしまったな」

('A`)「今でもそうだけどな……」

川 ゚ -゚)「まったく、私がいないくらいでへこたれるな」

('A`)「うん……」

僕たちは四時間弱、話し続けた。
現在のこと、昔のこと……僕と彼女が初めて会ったときのこと。
人生でここまで一秒一秒を大切に思ったことは初めてだったと思う。

やがてタイムリミットがやってきて、彼女は幻のように消えてしまった。
彼女から伝えられたことは「強く生きろ」ということ、僕が伝えたのは……感謝の念と、今までの想い。

たったの一日、それも四時間に満たなかったけれど、奇跡だった。
これからは頑張っていける気がする。
いや、頑張ろう、クーの分も。

ベランダに立ち、暗い空を見上げると、厚い雲が垂れ込めていた。
今にも雨が降りそうだ。




       ─ カササギの架け橋のようです ─

 

 

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