(#゚;;-゚)ベトナムは遠すぎるようです
―― 一年にただ一度だけ出会うというその星の許で、僕たちは抱擁し合う。
時間を忘れて。
色褪せた畳に二人で寝転がって眺める星々の流れは美しい、どこまでも美しい。なぜ僕は、あんな風に
きれいに生きることができないのだろう、そんな恨みに似た感情を抱いてしまうほど、息苦しくなるほどに。
灯りを消して窓を開いた部屋。ただ仰向けに、死んだように寝そべって星を見つめる僕。そんな僕の隣で、
彼女はただ僕に寄り添って座っていてくれた。今日始めて会ったばかりの、名前も知らない、僕に。
( ・∀・)「今日は、七夕だね。知ってるかい? ……知るはず、ないか」
日本人でもない彼女が、日本の風習を知っているはずもない。けれど彼女は、驚いたことに首を振った。
(#゚;;-゚)「タナバタ。知ってる。ワタシのクニ、タナバタ、ある。
一年に、一ヶ月ダケ。天の神様の娘、カラスがかけた橋、渡って……コイビト、逢う」
浅黒い肌の彼女。黒く短い髪。たどたどしい、日本語。身体じゅうに残っている傷跡の理由は、知らない。
この国では、織姫と彦星が渡る橋を架けるのはカササギだ。カラスじゃない。けれど、他は同じだった。
(#゚;;-゚)「七月。その一ヶ月、コイビトたち、一緒に暮らす。天の川、嬉しナミダで溢れる。雨、ズット降る。
七月が終わったら、別れる、天の神様の娘、泣いて悲しむ。やっぱり、雨、降る」
( ・∀・)「……あはは。それじゃ、一年中雨じゃないか」
笑った僕の顔を見て、彼女も笑う。けれどそれはどこか悲しそうな、寂しそうな笑顔。
そして寝そべる僕の額に手を置いて、また首を振る。真っ暗な部屋、彼女の手のひらが、じん、と温かい。
(#゚;;-゚)「間違いじゃナイ。ワタシのクニ、一年の半分、雨だモノ。ソレニ――」
(# ;;- )「ソレニ……アナタも……雨。アナタ、ズット、泣いてた」
( -∀-)「……僕は、泣いてなんかいないよ」
彼女は言う。街角で出会い、出会うなり彼女を金で買った僕に、名前も知らない僕に……諭すように。
(#゚;;-゚)「ナミダ流す、泣く、チガウ。ココロが曇る、ココロに雨、降る。
それ……泣いてる。ココロ、泣いてる」
闇の中に丸く、磨かれた宝石のような。降る星のような、深い翡翠の輝きを帯びた愁う瞳。何一つ身に
着けていない肌は暗闇に紛れ、星だけが僕を覗いている。だから独白は、自然に僕の口をついて出た。
( ・∀・)「……僕ね。明日。明日……生まれて初めて、人を殺しにいくんだ」
彼女は黙って聞いている。僕は目を閉じて、彼女の手に自分の手を重ねる。今はただ、温もりが恋しい。
( -∀-)「鉄砲玉さ。僕を拾って育ててくれた人が、商売敵に殺されたんだ。
だから、誰かが……若くて、下っ端で、家族がいなくて、死んでも誰も、困らないような……」
( ;∀;)「……だから、悔いが残らないように、って。死ぬかも、しれない、から、っ。
だから、好きなことをしろって、お金を渡されて、僕はっ、君を……!」
押し込めていた感情が表に出て、僕の歯の根を震えさせ始める。彼女の手に置いた手もがたがたと震え、
僕はもう幼い子供のように嗚咽している。はっきりと見えていた星は、今は涙に滲んで本物の川のようだ。
( ;∀;)「ずっと……いつかはこんなことになるかもって、そう思ってたのに、怖いんだっ。
怖いよ、嫌だよ……! 死ぬのは嫌だ、僕は、やっぱり、行きたくないっ……僕はっ……!!」
そう。僕には決心など付いていない。僕は死にたくない。行きたくない。逃げたい……消えてしまいたい。
彼女はずっと黙って、そんな僕を見て、それから静かに言った。
(#゚;;-゚)「イチバン良くないコト、死ぬコト、よくない。イチバン大事なコト、生きるコト。
生きるコト、イチバン。わたし、生きる。お金、ほしい。お金ないと、生きられない。ダカラ」
僕の首を抱いて、彼女は首を振る。丸い瞳で、僕の顔を真っ直ぐに見る。
(#゚;;-゚)「同じ。死ぬカモしれない、よくない。アナタ、逃げる。生きる」
それだけを言って、あとはもう、何も言わなかった。
輝く白い星の帯。その下で僕は泣き、そして彼女は僕の首を抱いて、静かに笑った。
―― 気が付くと、夜は明けていた。
僕たちは、うぶな恋人同士のように、裸で、手を繋いだまま眠っていた。
何となく気恥ずかしいような気がして、僕たちは二人とも背を向け合い、黙って衣服を身に付ける。
身支度を済ませた彼女は、また寂しそうな、悲しそうな表情をして、僕の顔をじっと見つめた。
その彼女に、僕はタンスから取り出した現金の束を、ぽん、と渡した。
( ・∀・)「これ、僕の全財産。今日の夜まで、預かっててくれないかな」
怪訝そうな顔をする彼女に、笑って続ける。
( ・∀・)「この部屋はね、今日中に引き払わないといけないんだ。荷物は全部持って出ないといけない。
今夜、夕べと同じ場所に行くよ。だからそれまで、僕が取りに行くまで持っててほしいんだ」
(#゚;;o゚)「それジャ――」
もう、心は決まっている。
返事は返さずに、片目を瞑って頷く。その途端、彼女は満面の笑みになって頷いた。
(#^;;-^)「――分かった。待ってる。キット、だよ?」
( -∀-)「ああ。……また、今夜ね」
窓の下を、夏の眩しい、白い陽を受けて歩いていく彼女を見送る。
できることなら、彼女の生まれた国に行ってみたい。そして夜、彼女と一緒に横になって、満天の星空を、
星々の河を、それが空に溢れ雨になって降り注ぐのを一緒に眺めたい。そう、願う。
けれど、それは叶わないだろう。
―― 今日僕の元に舞い降りるカラスは、きっと僕を彼女の故郷へと連れて行ってはくれないだろうから。