七月七日、快晴。のようです

父さんは年に一度、母さんに逢うために遠出をする。
母さんの好きな花やら好物やら、山のように車に積んで、川を渡って逢いに行く。

それはいのだが、正直気合いが入りすぎててちょっと引く。


从 ゚∀从 「毎年言うけど、いくらなんでも多いだろ。この菓子なんて箱のままじゃん」

( ^Д^) 「何を言う。一年分だぞ? 一年分の俺の気持ちだぞ? むしろ少ない位だろ」

从 ゚∀从 「食べきれねぇって母さん」

冷静に忠告してやったのに
この時期になると変にテンションが上がる父さんは全く聞く耳を持ってくれない。
俺は諦めて大量の荷物とともに車に乗り込んだ。



父さんと母さんは大恋愛の末に結婚した、とても仲のいい夫婦だったそうだ。
今は離れ離れになってしまったけれど、年に一度、今日だけは、
ハインと父さんが母さんに逢いに行ってもいい日なんだよ、と父さんは小さいころ俺に言った。


そんなことを思い出しながら車に揺られている内に見覚えのある景色が近づいてきた。
川を渡ってすぐの処で車を停め、二人で手分けして荷物を持つ。

やがて目的地までたどり着くと、父さんは両腕いっぱいの花束を持ってにっこり笑い、

( ^Д^) 「今年も来たよ、トソンさん」

と、母さんのお墓に向かって言った。


七月七日、快晴。
母さんは十年前の今日亡くなり、今はこの場所で静かに眠っている。


( ^Д^) 「ハインはこんなに大きくなったし、俺もますます男前に……」

从 ゚∀从 「そういうのは後にしろアホ親父」

まだ掃除もしない内にさらに近況報告を始めたので、頭を菓子箱でひっぱたいた。


誰にも言ったことはないけれど俺は墓参りそのものよりもこういう手入れの方が好きだ。
もう記憶もおぼろげな母さんに、せめて孝行しているような気分になる。なんとなく。
汲んできた水を墓石にかけると、水滴に初夏の日差しが跳ね返ってまぶしかった。

綺麗になった処で花とお菓子をどっさり供え、立ち昇る線香の煙の前で手を合わせる。

从 ゚∀从 「もう十年か。父さん、再婚とかしないの?」

手を合わせながら、俺は何とはなしに訊いてみた。
すると横の父さんは考えるそぶりすら見せず、しないなぁ、と当たり前のように言った。

( ^Д^) 「だって父さんは母さんの彦星様だからなぁ」

从 ゚∀从 「うわぁ何それ……いやいい、やっぱ言わなくていい」

(*^Д^) 「いや、プロポーズしたのがちょうど七月の今頃だったからさぁ、
      そしたら母さんが俺に言う訳よ。もしも織姫と彦星のように離れ離れになっても、
      一年に一度しか逢えなくなっても、それでも私に逢いに来てくれますか、って」

从 ゚∀从 「うわぁ……」

(*^Д^) 「もう、即! 二つ返事で約束したね!!
      だから俺はこれからも、年に一度の命日には全身全霊で墓参りするね!
      だって約束したからね!  あぁーあの時のトソンさん可愛かったなぁー!」

墓地の中心ではしゃぐ実の父親いい歳、を見ていたら、本気で頭が痛くなってきた。
どうして親の恋愛話ってこんなにいたたまれないんだろう。やってられねぇ。
もういいわ、とげんなりして遮ろうとしたら、

( ^Д^) 「それに父さん、今でもやっぱり母さんが一番なんだよなぁ」

と、父さんはまた当たり前のような顔をして言った。



父さんは年に一度、母さんに逢うために遠出をする。
母さんの好きな花やら好物やら、山のように車に積んで、川を渡って逢いに行く。
空の上のようにロマンチックではないけれど、
水際から吹いてくる微風が心地好い場所で、母さんは毎年ちゃんと待っていてくれる。


俺たちはすっかり身軽になった車で帰路に着いた。
来年の今日も、再来年の今日も、きっと父さんは同じように花を持って母さんに逢いに行くんだろう。

来た時も通った橋を渡ると、日暮れ後の川面は夜空と同じ色の水がたぷたぷ波打ち、
街灯や車のライトが反射して、星屑みたいに瞬いていた。

 

 

 

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