◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:26:20.28 ID:lhUfmMmh0<> http://boonsoldier.web.fc2.com/seinto.htm
にてまとめていただいております。
厨臭いのはスルーしてください(´・ω・`)

読みにくいのは仕様です

セイントは聖闘士ではありません、、 <>( ^ω^)ブーンがセイントになったようです 愛のVIP戦士<>sage<>2007/03/10(土) 12:26:26.73 ID:LzMfRdKn0<> あっ、紫のニガーだ! <> 愛のVIP戦士<><>2007/03/10(土) 12:26:55.27 ID:K+OTT9Rj0<> セインッセイヤッ! <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:27:59.54 ID:lhUfmMmh0<> 第七話「過去の思惑」

ヴァンパイアの集うというオズヴァ。
そこは一概にトリーシアの東と表現できるが、実際はその間に多くの山々を挟んでいる。
旅人がもしトリーシアからオズヴァへ行こうとするなら、まずこの山間を越えるものはいない。
山の標高が高く、険しく、まさに命を賭けねば行けぬような道であるからだ。
登山者にとっても最高難易度のコースとされているこの山々は、ラウンジ山脈と呼ばれている。

では、旅人はどうやってオズヴァへ行くのか。
それは簡単。先ずトリーシアを北上し、リスボンへ。
次にリスボンを東に経由し、マドリアドに。
最後にマドリアドを南下して数日歩けば、オズヴァに到着といった感じである。

現在ブーンたちがいるのがリスボンなわけであるから、ここからはマドリアドへと向かうことになる。
一通り荷物の整理を終えたブーンたちは、今まさにマドリアドへと足を向けていた。














<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:29:41.24 ID:lhUfmMmh0<> 「いい天気だな」

ドクオが空を見上げながら言った。
平原を歩く四人の頭上には、確かにさんさんと輝く太陽、雲ひとつない空があった。

「マドリアドは気候が良いからね。農作物の産地ってほとんどここなんだよ」

ショボが付け足すように言った。

「へえ。マドリアドって豊かなんだな」
「そりゃまあ、リスボンに比べればね。帝都にも近いし、軍備も凄く充実してるんだ」
「じゃあやっぱり、僕らのいた修道院はしょぼしょぼだったのかお…」

他愛もなく笑う三人。
哀願に満ちた先刻までの…リスボン崩壊。
ジョルジュの死、退魔銀の事……それらを思わせないように、明るく振舞っていた。

その中でも、ツンだけは進んで会話に入ろうとはしなかった。
一人だけドクオの述べた青空を見上げ、とぼとぼと歩いている。

「おーい、ツン。お前もこっち来て話そうぜ」

ドクオの言葉に、ツンは一瞬間おいてから振り向いた。
顔色はリスボン崩壊直後のように青ざめてはいないものの、やはりそこまで優れているとは言いがたいものだ。

「……………」

ツンは何かを言おうと口ごもったのだが、それは口元から出ることなく喉に飲み込まれた。
その様子を見、ショボがドクオのわきから顔を出す。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:31:22.10 ID:lhUfmMmh0<> 「リスボン崩壊は仕方のないことだ。君が責任を感じることでは……」

ショボの言葉を聞いたツンの口元がゆがむ。
キッとしたその表情はやがて穏やかになったが、また俯く。
これは感情に任せて攻めすぎたかと、ショボはリスボンが崩壊した頃を思い出した。

「あの時君を攻めすぎたのは済まなかったと思っている…。
 謝って許してもらえるとも思ってはいない。気にしていないといえば嘘ではあるが、やはり君が負い目を背負うことではない」
「それは、本心なの?」

俯く顔を上げ、ツンがショボをまっすぐ見ていた。
その表情は日差しに当てられ、眩しくてよく見えなかった。

「本心だ。二言はない」
「そう…」

ショボのきっぱりとした発言を聞いた後、ツンは両の手で顔をごしごしと擦る。
そして目をぱっと開くと、先ほどとは少し違った、明るい表情になった。

「オズヴァへ行って、ヴァンパイアを倒すんでしょう?」

ツンがショボに訪ねる。
ショボは一瞬きょとんとしていたが、すぐに落ち着き、微笑した。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:33:15.67 ID:lhUfmMmh0<> 「ああ。オルミアもそこにいる」
「なら…退魔銀を持つ私の協力が不可欠なのよね」
「そういう事だ」
「じゃあ………仕方ないわね」

ツンが小走りをして、歩く三人の少し前に立ち、見向き、

「私はツン。リスボンの道具屋の娘です。よろしく」

と、一礼した。

ショボ以外の二人は少々戸惑い気味ではあったが、やがて同じく笑みを返すと、挨拶をした。



<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:34:56.85 ID:lhUfmMmh0<> 「そういえば、ツン」
「何?」

しばらく歩いた後、突然ドクオがツンに話しかけた。
ドクオは女性慣れしていないらしく、顔を赤面させていた。

「そ、そのさ。何でツンは教会の術士でもないのに術を使えるんだ?」

ショボとブーンもハッとした。
確かにそれは自分も思っていた疑問なのであった。

そもそも、術士というのは術の才能があるものだけがなれる。
生まれたときにその才能は定められていて、それが無いものはいくら努力しようと術士にはなれない。
術力には個人差があるが、それも鍛錬すればどうにかなるもので。

教会の人間でもないツンが退魔銀の杖を持っていること、強大な術力を持つこと。
そして術自体を使えることには、暗愚な事だと思う人間が多いのは無理の無いことであった。

「そうね……。これは、数年前の話になるかしら…」

ツンは瞼を閉じると、ゆっくりと語りだした。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:36:42.78 ID:lhUfmMmh0<> リスボンの道具屋の娘として物心がつき、その使命感から逃げ出そうとした頃。
もっといえば、父親がオズを養子にした頃のことであった。

寒さの続く真冬で、その日は父がたくさん持ってきた薪で、暖炉を焚いていた。
何せ外には雪も降っていて、とてもではないが外に出られるはずもない。
客足もめっきりと減ってしまって、ツンはオズの面倒を見ながら呆けていた。

オズはこの頃年、端もいかない幼子だった。
養子、である故にツンとオズの年齢はだいぶ離れている。その差、十。
ツンが十三で、オズはまだ三歳であった。

父親は一応、と言うことでカウンターに立ち、客を待っている。
もちろん、寒さの所為で一時間に一人、二人来るくらいであったが。
母はいない。数年前……オズが恐らく生まれたころであろうか、亡き人となった。

ツンの母の死は、事故として処理されている。
死因は体を炎で焼かれたことによる焼死。冬のリスボンの裏路地で、火達磨となっていたそうだ。
事件が起こった日も、今のような真冬の日だった。

だから、炎を使う作業も必然となる。焼死という事を誰も疑わなかった。
だが、何かがおかしかったのをツンは覚えている。

そもそも冬場に、焼死なんてことは滅多にない。
紅蓮の身を燃やす薪は鉄柵とにしきりにあり、暖炉の炎で死ぬと言うのは、煙突から落下し、その身を焦がすか。
道端で焚き木をしていた浮浪者にもらい火をして、火達磨となって死んだと言う可能性も否定は出来ないが、ありえない。
第一に、殺された場所が裏路地という人気のない場所であった事から鑑みて、殺人事件と見ることが当然だった。

だが、証拠も何もなかった。
ツンの父親も、ツンも諦めるしかなかったのだ。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:38:23.78 ID:lhUfmMmh0<> 「……………ふう」

窓辺を見るツンの瞳には、あの日の光景がやはりあった。
結局、検死されるために搬送された母が戻ってきた時に、やっと死に顔を見られたのだ。

酷いものであった。
本人かどうか、ツンでさえわからなかった。
真っ黒にこげたその全身からは、未だにきな臭さが漂い、鼻腔を刺激していたことは、ツンにとって忘れられないトラウマだ。

やがて成長したツンは、可能性を手当たり次第に探した。
そして、辿り着いた仮説がある。
その頃はちょうどリスボンが教会で発展してきた頃で……ツンもそれに興味を抱いていた頃である。
教会には術士がいる。特殊な術(火炎、冷気、雷撃)を操り、他人の体を治癒する術を操る者。
その力は人々の位に役立てられていたが、逆に言えばその術を悪用できるものもいる。

しかし、いくら術力をもっていたとしても、術を開花させることは難だ。
詠唱、魔方陣、定理等、様々な方程式を組み合わせた上で、術は成る。
だから教会でそれを学ばぬ術士は、術力があったとしても術を使うことは不可能である。

だが、もちろん例外もいる。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:40:04.79 ID:lhUfmMmh0<> 一派的に存在する、教会の術士(聖術士と称する)と対を成す、魔術士。
魔術士は元、聖術士を破門された者の成りはてで、術力のある人間を捜しては、己が道に引きずり込もうとしている。
その目的はもちろん、教会の殲滅。

が、教会は実際、政治的権力なども大きいため、魔術士というグループは実際表に名が出てきたこともないし、知名度もない。
術力を持つものは早いうちに教会の巡回者がそれを見抜き、魔術士に取られぬうちに教会へと連れ込む。
それが故、魔術士の数は極端に少ない。恐らく、両の指で数えられるほどしかいない。

ツンはそこで悩んだ。
何故、そんな少数派が、教会の術士でもない自分の母親を殺したのか。
明確な理由を思いつけない。分からない。

だが、この頃から。ツンは術士を恨めしく思うようになっていった。
元、炎が怖かった。母を亡くした悲しみを、誰かにぶつけたかった。
だから、その可能性がある……術士全てを恨んだ。ツンの家に教会の巡回者が来たときにも、ツンは居留守でやり過ごしていた。

「何を考えてるのかしら、私」

自分にじゃれてくるオズを身ながら、ふと思った。
オズは無邪気だ。何も知らない。
だから将来、オズが教会の術士となることは……嫌だった。
そんな内心でツンはオズが道具屋を継ぐことに関しては賛成だった。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:42:03.02 ID:lhUfmMmh0<> 「さあ、オズ。そろそろお昼寝の時間よ」
「あー?」

ツンは椅子から重い腰を上げると、オズを抱いて寝室へ行く。
やがてオズを眠りにつかせると、カウンターの父親のところへ向かった。

父親はちょうど、客足が途絶えたために店を閉めていたところであった。

「ツンか。オズは?」
「寝かせた。もう店は閉めちゃうの?」
「ああ。この雪じゃあ、もう客は来ないさ」

父親は「CLOSED」と書かれた看板を玄関に張り、戸の鍵を閉めた。
一瞬だけ外から吹き込んだ風が、とても冷たかった。

「………ツン」
「なに?」

父親が眺めるように、遠い目で自分の姿を見てきた。
そのいつもと違った不自然な態度に、ツンは妙な違和感を覚えた。

「母さんが死んだこと、覚えてるな」
「!」

先ほど、外の雪を見て母の死を考えていた。
ツンは思わずぎくりとする。 <> 愛のVIP戦士<>sage<>2007/03/10(土) 12:43:07.83 ID:CPtDNZUt0<> 支援 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:43:49.12 ID:lhUfmMmh0<> 「お前も分かっているとは思う。母さんは事故じゃなく、殺されたんだ」

はっきりと言い放った。何故、父親は。何を知っているのだろう。
その全ての考えが、父親の次の言葉で真っ白にされた。

「お前の母さんは。教会の術士だったんだ」
「え……?」

意識が呆けた。
自分が忌むべき対象……としていた教会の術士。母親がそれであった?
ツンの心に葛藤が現れた。

「だが母さんは普通の術士じゃない。数年前、教会から破門されている」
「そ……それって……!!」

魔術士。
その言葉が不意にツンの頭の中でぐるぐると回りだし、ツンは吐き気を覚えた。
独学で調べ、辿り着いたことだ。母を殺したかもしれない組織の名前だ。

しかし、教会を破門された者全てが魔術師ではない。ツンは心を落ち着かせようとした。
だのに、

「そして、母さんは、魔術士という組織と関わりがあったらしい」
「そん…………な……」

ツンは目の前が真っ白になるのを感じた。
母が魔術士? 何故? いったい何故!!
そももそも何故母は教会を破門された? 何故父はそのことを知っている?
ならば何故あの事故と言う結果を、素直に受け止めたのだ?
ツンは頭の中に浮かんだことを、乱暴な態度で全て父に尋ねた。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:45:28.85 ID:lhUfmMmh0<> 父は、おっとりとした顔で話し始めた。


母は父と出会う前、教会の術士だった。
とても優秀で、偉大だったらしい。地位も大神官。
何より特筆すべきはその術力。地方の教会では、誰にも負けぬほどの術の使い手だったらしい。

だが、ある日事件がおきる。
母の生徒がとあることで口論となり、喧嘩をした。
生徒たちに呼ばれ、すぐに母は駆けつける。
その頃には喧嘩も激化し、なんと術同士をぶつける戦いに成っていた。
術は危険だ。もちろん直撃すれば、死の危険も有り得る。

だから威嚇をしようとした。
二人の間の床に、強烈な雷撃の呪文を浴びせようとした。

威嚇は成功した。二人の間には大きな雷撃が落ち、二人の動きは止まった。

その瞬間、周りにいる全ての人間が。
母は威嚇ではなく、二人を止めるには殺すしかないと判断し、雷撃を放ったのだと。
そう、無茶苦茶な発言をしてきた。母は何がなんだか分からず、立ち尽くしていたと言う。

全員、グルだったのだ。
母の術力を恨む他の神官が、生徒を買収し、母に問題を起こさせた。
母は量刑裁判にかけられ、術士を破門されることでその責任を負った。

それから放心して各地を彷徨った母は、偶然リスボンで倒れ……父に救助される。
それが母と父の出会いだった。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:47:15.37 ID:lhUfmMmh0<> 母がリスボンで暮らしてから数年、突然母の元に不気味な人物が現れるようになったと言う。
黒ずくめのフードに身を覆った、何人かの人間。
しつこく母にせがむ様に何かを言うのだが、母はそれを拒否する。
そうすると男は一瞬のうちにどこかへ消えた。遠くから見ていた父は、それが術士であると確信していたと言う。


「今思うと、私は馬鹿だった。その時、デレにあのことを問い詰めておくんだった…」

地下への階段を下りながら、父はつぶやいた。
こぶしをぎゅっと握り、歯を食いしばりながら。

「………過ぎたことよ。それより、うちにこんな地下室があったなんて」

ツンたちは今、地下室へ向かっている。
父が母の事を知った理由、それはこの地下室で母の遺書を見つけたからだと言う。
その中には、ツンに当てたものもあるという。だが、父はなぜかどうしてそれを開けられなかった。

いつかツンも連れて行かねばならない。
今日を選んだのは、あの時と同じ雪の日であること、ツンが成長したこと、そして何より。
かつての事件と、ちょうど同じ日であるからだった。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:48:58.20 ID:lhUfmMmh0<> 父はその黒ずくめを不審に思いながらも、教会から何か言付けを預かっているのだろう。
と、問い詰めはしなかった。

それからツンが生まれ、そして母は死んだ。

父が最初に母の死体を見たとき、これは術士の仕業なのではないかと直感的に思った。
母が破門されたことは知っていた。だから、それでも尚母を恨む術士が、母を殺したのではないかと。
だが、そこまでだった。証拠も何もなかった。

だから父は。母の手がかりをつかむために、教会のお守りを作り始めたのだ。
教会と内通し、その手がかりを得るために。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:50:46.69 ID:lhUfmMmh0<> 「さあ、ここがその部屋だ」

地下へ続く螺旋階段を下り、古い木の扉の前に立つ。
父がそのきしむ扉を開けると、中にはなんとも簡素な、三つの箱があった。
どの箱も簡素な鉄の塊で作ってある。
鍵穴も見当たらない。だのに父は、真ん中にある自分宛の宝箱を開けられないと言うのか。

「信じられないのならば、私の箱を開けてみなさい」

向かって左にある箱が、父への箱だった。
箱の表面にそう彫られているのだから間違いない。
ツンがその取っ手を握ってみると、確かに開かなかった。

「何か強力な術がかけてあるようだ」
「そうみたいね」

ツンは向き直り、自分の箱に手をかける。
すると、いとも簡単にその箱は開き、中からは一枚の紙切れが出てきた。

「……なんと書いてある」

今までにないほど、父が目を炯々とさせて言う。
ツンは静かにその遺書を読んだ。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:52:32.44 ID:lhUfmMmh0<> 『                                       ツンへ
 あなたがこの遺書を読んでいるのならば、私は死んでいますね。
 あなたには私の全てを話します。この部屋に貴女以外の者がいるのならば、追い出しなさい。』


そこまで読んで、ツンは父を部屋から追い出した。
父も、母からの命令なので素直に従った。



『カラマロス(ツンの父である)から聞きましたか?
 私は昔に教会を破門されました。
 それ以降、私を付けねらう黒い影がありました。
 それを魔術士といいます。私の術力を、悪に利用しようとする組織です。』

「……魔術士」

母が魔術師ではないことを知って安堵した。
話から推測すると、父の言っていた黒ずくめの男こそが魔術士だ。

『私が死んだと言うことは、次に狙われるのはあなたです。
 注意しなさい、ツン。貴女は私と同じほどの術力を持っています。
 いつになるか分かりませんが……貴女も確実に毒刃を向けられます。
 あなたに私の術の定理と、杖を差し上げましょう。どうか、自分の身を守ってください。
                                                    デレ』
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:54:13.35 ID:lhUfmMmh0<> ツンの頬を涙が伝っていた。
母に黒は何もなかった。悪いのは全て術士なのだ。
其の安堵による涙だった。
 
その後暫くして、ツンは一番右の箱……デレの遺品の入った箱を開けたのだ。


第七話:完 <> 愛のVIP戦士<>sage<>2007/03/10(土) 12:54:20.44 ID:CPtDNZUt0<> 支援 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:56:08.02 ID:lhUfmMmh0<> 第八話「決意の瞬間」


「それで、ツンは術を……」

ひとしきりにツンの話を聞いた後、ショボは空を仰ぎながらいった。
同時に、後悔もした。ツンの気持ちも知らずに、冷たく当たっていたことを。

自分がツンに当たったとき、ツンは確かに襲われた理由など知らないと言った。
だが、無理もないと思った。そんなこと、信じたくないものだ。
ショボは無性に謝りたくなったが、その言葉は喉に飲み込ませておいた。

「母の定理は凄かった。詠唱も最短でかつ、威力も高いように設計されていた」
「なるほど。俺は教会のことは全く分からんが、とりあえず術の定理と言うものが良質だと、威力も高まるのか」
「そうだお。術士は基礎を学んだ後、自分で定理を導き出すんだお。僕はそれが下手だったんだお…」

術の公式として重要なのが、定理と術力と杖である。
まず定理で術の骨組みを構成、基礎的な術力に働きかけて、杖との共鳴反応で術を起こす。
定理がしっかりとしていれば術は強いし、術力が高く、杖の宝玉が効果になれば威力はさらに倍増だ。

ツンの場合、三つの要素が特化しているため、術の威力は絶大となる。
ショボの場合、三つの要素が普通のため、術の威力もそこそこ。
ブーンの場合、三つの要素があまりないため、術の威力は没だ。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:57:48.99 ID:lhUfmMmh0<> 「……なあツン。今の俺たちは仲間だ」
「どうしたの、ドクオ?」

ドクオの言葉に疑問を持つツンを、その言葉の意味に気づいたショボが諭す。

「君は今まで術士を嫌ってきたんだろう? でも、僕やブーンのように君の思い描く術士ばかりではない」
「信用して欲しいお。僕がいっても説得力ないだろうけど」

ブーンが見れば、ツンは笑っていた。
先ほどの暗い表情からは信じられないほど、明るい笑顔だった。

「ええ。私が間違ってた。私だってくくれば術士だもんね」

ショボも、ドクオもブーンもみな微笑む。

「そうそう、僕たちみんな術士だお!」
「はっはっは、ブーンは乙な術士だがね」
「けーっ、俺だけ術士じゃなくて剣士かよ」

ドクオがふてぶてしく、だがしかし、嬉しそうに言った。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 12:59:32.47 ID:lhUfmMmh0<> 「しかし……そうかんがえると、ヴァンパイアと魔術士は結託していることになる」

ショボがそのムードの中、突然真剣に言う。
ツンも、静かにうなずいた。

「私を狙ったのはヴァンパイアのエルとジョルジュ。
 その背後にあるのはオルミア……正体は、全てヴァンパイア。
 私を狙うということは、ヴァンパイアと魔術師が結びつくことの何よりの証明なのよね」

「ツン、マドリアドはもう目と鼻の先だ。
 おそらく、オズヴァに近づくと、君の追い求める何かがあるはずだ」

「私の目的はもう、敵討ちだけじゃない。
 母の事を全て知りたい……だからオルミアを囲う魔術士を倒したい!」

「その為の、退魔銀だもんな」

ドクオが退魔銀の剣をちらつかせる。
その途端、ブーンとショボは妙な表情になった。

「そういえばドクオ、随分あっさりと退魔銀の剣を取れたんだおね?」
「え? いや、苦労したんだぜ! 水の精霊とかいうよくわからんやつと戦ってな」
「……のわりには随分早かったね。ジョルジュを倒すのに、そんなに時間をかけちゃいない」

ドクオが焦りだす。
その表情には困惑があった。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:01:06.56 ID:lhUfmMmh0<> 「いやあ、それがな。ブーンのことを話したら、あっさり退魔銀の剣をくれたんだよ。
 なあブーン、お前はそのミルナって人から何を教えられてたんだ?」

「……よくは思い出せないお。だけど、ミルナ様は。
 私に何かあったら紅き森へ。銀の剣が眠っているって」

「ふうむ。ミルナ様はブーンに退魔銀の剣を授けようとしたんだね。
 その絆には何があったんだろう。ブーン、君は拾われ子だよね?
 ミルナ様になんで拾われたんだい? 言っちゃ悪いけど、術力のない君が」

ショボの言葉にブーンは少し愕然とし、肩を落とす。

「わかんないお。でも、きっとなんかあるんだろうお。
 そうでなきゃ、退魔銀の剣なんか僕に授けようとしない。
 と言っても、僕は剣技なんかできんから結局ドクオが持ってるけどお…」

「うむ。水の精霊とやらもこういっていたんだ。
 ミルナの遺志を継がぬものよ、立ち去れ。ってな。
 それで襲われて戦うことになって、水の精霊に何故ここに来たかをたずねられて…。
 ブーンの名前を出したら、水の精霊はおとなしくなってな。色々話をした後、剣を授けられた」

「色々話って、どんな話なの?」

ツンも会話に入る。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:02:52.47 ID:lhUfmMmh0<> 「ブーンは元気かとか。
 今の世界はどうなってるとか。
 退魔銀を使う目的とかな。
 そう言えばその時、変なこといわれたんだよ」

「変なこと?」

「もう外せ、とブーンに伝えてくれって」

場が静まる。
何を外すのか? ブーン意外に知りえない。
ブーン自身も困惑していた。風呂に入るときは勿論、全ての服、アクセサリーを外している。

「外すことに心当たりはないんだな、ブーン」

ドクオが横目で見ながら言う。

「ないお…」

ブーンも残念そうに俯いた。
マドリアドが見えたのは、それと同時だった。


<> 愛のVIP戦士<>sage<>2007/03/10(土) 13:03:04.42 ID:CPtDNZUt0<> 支援 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:04:50.72 ID:lhUfmMmh0<> 「クー!」

マドリアドに辿り着いたブーンが先ず発言したのが、その言葉だった。
ショボも驚いている。が、ツンとドクオだけは知らない風だ。

やがて、クーと呼ばれた女性が振り返る。
青い髪を風にたなびかせながら、ゆったりと、美しい顔を向けた。
その顔はあの頃と全く変わっていない。
ショボは一瞬、彼女が魔術士か何かではないかと警戒したが、その気は見られなかった。

「ブーンにショボに……どちらさまだ? 久しぶりだな」

ツカツカと岩床に足音を鳴らせながらクーが近づき、やがてブーンの目の前に来た。
クーはブーンよりも背が少し高いので、ブーンは見上げる形になった。

「それより、クーもなんでこんなところに? 任務でも?」

ショボが脇から訪ねる。
ブーンもハッとした。確かにそうだ。

マドリアドとあの教会は、歩いていこうものなら一週間やそれ以上の日を要する。
わざわざここへ来るということは、それなりの目的があるということだ。
だが、山奥の修道院の長であるオルミアは今、オズヴァにいる。
つまるところ、あの修道院ではパニックが起こっているであろう。突然長が消えたのだから。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:06:17.95 ID:lhUfmMmh0<> 「そういうお前たちも何故ここにいるんだ。リスボンに用事があったんだろ?
 だのに全然戻って気やしないじゃないか。私はオルミア様に、お前たちを連れ戻して来いと命じられたのだ」

「それが何故マドリアドまで来てるんだお?」

「馬鹿言え。私がリスボンへついたとき、そこは廃墟だった。
 私がリスボンへの道でお前たちに出会わなかったと言うことは、お前たちはそこで死んだか先へ進んだかだ。
 それに、ふもとの町ではドクオと言う剣士がいつまでも戻らぬと言う話を聞いた。そのドクオと言うのは、あちらの剣士だろう?」

クーが指をさす先には、がっしりした体躯のドクオがいた。
ドクオもふと思い返せば、何日も任務をほったらかしにしている。

「なるほど、僕たちが真紅の森へ行っている間に、クーがと入れ違いになったんだ。
 それでクーのほうが先にマドリアドについていた、と言うわけか……」

ショボが腕を組んで納得する。

その後、クーが真紅の森に何をしに行ったのかとたずねたので、クーには全てを話すことにした。

退魔銀のことも。
オルミアのことも。
魔術士のことも。
ヴァンパイアのことも。
エルとジョルジュのことも。

全て。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:07:54.98 ID:lhUfmMmh0<> クーは最初、信じられないと言って立ち尽くしていた。
彼女はオルミアを誰より尊敬したいたので、ヴァンパイアだとは到底信じられないと言う。
だが、現実はそうなのだ。確かに、ジョルジュが死に際にオルミアはオズヴァにいると言った。
ショボに自分の剣を授けるほどだ。そこで嘘などつくはずがない。

ショボは、信じられないならば自分たちと一緒に来て、真実を目の当たりにしろと冷たく言い放った。
それきり、クーは考えさせろと残すと、ふらふらと町並みへ消えていった。




<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:09:52.81 ID:lhUfmMmh0<> やがて夜になる。

マドリアドは交易の盛んな都市なので、人口が多い。
ブーンたちが到着したのは夕方であるが、その時間になっても町の奥……特に港には人がたくさんいた。

マドリアドは海産料理が名物だ。
ここでしか取れない魚も多い。宿は町のあらゆるところにあるが、どこでも魚料理が出る。
ブーンたちもこの番は、魚の解体ショーを見て、新鮮な刺身を食った。

久しぶりのまともな食事だったので、腹いっぱいになった一行はすぐに寝てしまった。
そんななか、ツンだけが。どうにも寝付けず、部屋を抜け出し、外に散歩しに行った。


夜風が吹き付ける。
マドリアドは海岸に面しているので、夜は潮風が吹き荒れ、特に冷え込む。
だのに、この夜でも人は盛んだ。

と言っても、こんな夜中に行われるのは……人身売買だとか売春だとか、そんな表沙汰には出来ないことだ。
警備員が町のいたる場所を巡回しているのは、その所為だ。
だからツンは人気の多い港を避け、町の開けた広場に出た。

と、その広場の中央……噴水の脇にあるベンチに、見覚えのある人物が座っているのを見つけた。
先程であった、クーだ。ツン自身はクーとは話していないが、ブーンたちとの会話から、その人物像などは見えていた。

ツンはゆっくりとそのベンチに足を向けると、静かにそこに腰を下ろした。 <> 愛のVIP戦士<>sage<>2007/03/10(土) 13:10:10.59 ID:CPtDNZUt0<> 支援 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:11:58.25 ID:lhUfmMmh0<> 「いい月夜ね」

空を見上げながらツンが言う。
確かに空には、満面に散りばめられた星と月が光っていた。

「君は先ほどの……。何の用だね」

ツンの方を向かなかったが、クーはツンの存在に気づき、返答した。

「単刀直入に言うけど。さっきショボが話したことは、事実よ」
「…………」

クーは黙り込む。
その気持ちは何となくだが、ツンにはわかっていた。
母を亡くした時の自分……そんな感じのオーラを、クーから感じられた。

「ヴァンパイアと魔術士という組織があるの。
 その二つが結びついて、この世界をどうにかしようとしてる」

「信じられんな……そんな妄言など……」

ツン自身も、ヴァンパイアのことはよく知らない。
だから、戯言とか妄想とか言われても反論は出来ない。
だけど、過去の自分にクーを重ねると……いてもたってもいられなかった。

「ここにくる途中、リスボンが崩壊されていたでしょう? 発端は、私なのよ」
「……!」

驚いた表情でクーはツンを見た。
その顔が、ツンの顔に反射した月明かりでよく見えなかった。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:14:03.58 ID:lhUfmMmh0<> いや、反射したのはツンの顔ではない。
その目から滴る……涙だ。クーは、ツンの心境を察知し、複雑な気持ちになった。

「私の母は強い魔力を持っていたわ。それで利用されようとして……断って殺されたわ」
「そんな……自虐的になって過去を思い返すな。辛いんだろう」

ツンは首を横に振る。

「いいえ。辛いとは違う。私は愚かだったのよ。
 母を殺した術士を憎み、全ての術士を憎んでいた」

「憎む……か」

クーが顔を下ろす。
ため息が漏れるその表情は、なんとも言いがたかった。

「母は、いつか私が狙われると遺書を書いてくれた。
 私も馬鹿よね。本当に信じていたなら、リスボンを捨てて単身どこかへ行けばよかった。
 その結果、私は狙われ……リスボンは崩壊した。遺書の内容を心のどこかで信じず、まだ術士を憎んでいたから」

「今でも、術士を憎んでいるのか?」

クーのふとした問いかけに、またツンは首を横に振る。
涙を、拭いて。まっすぐとした、目で。
<>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:15:32.04 ID:lhUfmMmh0<> 「ブーンやショボに会ってわかったの。全ての術士が悪い人じゃないって。
 真に悪いのは……裏にいる、ヴァンパイアと魔術士。その頂点にいるのがオルミアという人間」

「オルミア様か……。私にはまだ信じられんよ。
 私が教会を出たときも、優しい笑顔で送り出してくれた」

「でもね。そのオルミアがブーンとショボをお使いに行かせたのは、旅先で殺害させるためだったの。
 実際、ブーンとショボは何回もオルミアの刺客と名乗る人物に襲われているらしいの。その中で、私も知り合った」

「…………現実、なのか」

クーが月を見上げる。
美しかった。輝かしかった。曇った自分の心を、晴らすかのように。

そしてツンのほうに向き直る。まっすぐな目で。

「オルミア様、いや。オルミアを倒すのか」

「ええ。その為に、私たちはオズヴァへ向かっているの。
 これ以上、魔術士達に利用される人を見たくない。奇麗事だけど、それが私の理由」

その言葉を聴くと、クーが立ち上がり、ツンに向かってはじめて笑った。
クーのその無邪気な笑顔に、ツンは思わずつられて笑ってしまった。 <>
◆X5HsMAMEOw <>sage<>2007/03/10(土) 13:17:14.41 ID:lhUfmMmh0<> 「わかった。私も中途半端な気持ちで新年を無駄にしたくない。
 私もオズヴァに連れて行ってはもらえないか? 力になれるかは分からないが、協力したい」

クーが、細い手をツンへと差し出す。
ツンもうなずくと、その手を握り返した。

「勿論よ。ショボもああ言って、あなたが決心してくれることを待っていたはずだから……」

二人は握手した後、抱擁を交わした。
その姿は、月明かりを受けて、どこかとても神秘的に……美しく見えた。


第八話:完 <>
◆X5HsMAMEOw <><>2007/03/10(土) 13:18:50.21 ID:lhUfmMmh0<> 投下はおしまいです
合作中に何やってるんでしょうね、僕

ありがとうID:CPtDNZUt0
僕の友達は君だけだ

合作なので、これから終わるまでは投下しないとおもいます
随分間があいたのは仕様です

十二話で終わりなので、そろそろ終わりですしね

ではでは <> 愛のVIP戦士<><>2007/03/10(土) 13:26:46.94 ID:qmDJg2/y0<> 乙。






で、合作のほうは進んだのか? <> 愛のVIP戦士<><>2007/03/10(土) 13:27:18.56 ID:VK7OjSIXO<> 作者乙
諸事情により支援出来なかったんだ。 <>
◆X5HsMAMEOw <><>2007/03/10(土) 13:32:51.88 ID:lhUfmMmh0<> あ、物語のないように関して質問とかあればどうぞです

>>38
進んでません <> 愛のVIP戦士<>sage<>2007/03/10(土) 13:38:37.71 ID:CPtDNZUt0<> 乙

まぁ俺も支援している暇があるなら合作書けって話でうわなにをするやめry <>
◆X5HsMAMEOw <><>2007/03/10(土) 13:40:07.83 ID:lhUfmMmh0<> >>36の信念が新年になっとる( ゚ω゚) <> 愛のVIP戦士<>sage<>2007/03/10(土) 15:00:38.98 ID:ZEYgzSlZ0<> ho <> 愛のVIP戦士<><>2007/03/10(土) 15:25:58.02 ID:irROkowZO<> 保守 <> 愛のVIP戦士<>age<>2007/03/10(土) 16:32:25.16 ID:7F0rPzA5O<>
<> 愛のVIP戦士<><>2007/03/10(土) 16:47:21.72 ID:idodkOc00<> 総合から来ました
豆久しぶりだなwwww <> 愛のVIP戦士<><>2007/03/10(土) 16:52:41.23 ID:irROkowZO<> 今読みオワタ
乙! <> 愛のVIP戦士<><>2007/03/10(土) 17:01:06.29 ID:TNKTN/EHO<> 乙
久しぶりだな <>
◆X5HsMAMEOw <><>2007/03/10(土) 17:36:31.94 ID:lhUfmMmh0<> お久しぶりです。
三月には完結します。
やっぱりそのうち合作の合間に投下します(´・ω・`) <>