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( ^ω^)ブーンがセイントになったようです
1 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:35:21.47 ID:VuC41SJj0
http://boonsoldier.web.fc2.com/seinto.htm
にてまとめていただいております。
厨臭いのはスルーしてください(´・ω・`)
今回の話は急ピッチで書いていて手抜きになってしまいました…(´・ω・`)ショボーン
では、投下しますね(`・ω・´)シャキーン

セイントは聖闘士ではありません、、

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 19:35:28.93 ID:hLK5BQM90
http://blog.livedoor.jp/aibu123123/

3 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:36:07.59 ID:VuC41SJj0
第五話「暗流の鼓動」


「…で、その女の人の詳細を聞かせてもらおうかな」

ショボが机のランプに止まる蛾を見ながら言った。
部屋の明かりはそのランプだけで、ぼうと薄暗い。
蛾は開け放ってある窓から入ってきたらしい。その風景は、何か季節を感じさせた。

エルを倒したことで街の人全てがブーンたちを英雄と扱っていた。
宿屋の主人も同じく。そのおかげで、ブーンは無料で宿を取ることが出来た。
現在はドクオは闘いの傷を癒すために寝ている。勿論、ツンも別室のベッドに寝かせてある。
ツンの表情はエルとの戦いの後から蒼白であったが、ショボの快癒が今になって効いたのか、今では顔色はいい。

ショボが気になっている事はツンの事だけではなく、もう一つ。
リスボン崩壊の事である。リスボンは、彼にとっても故郷であるのだ。
その街が消えた。流石に動揺しないわけにはいかなかった。
だが、ショボには自制心がある。ここで憤慨していても仕方ないと悟り、ツンの事を少しでも知る事にしたのだ。

4 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:37:17.01 ID:VuC41SJj0
「ツンさんは、リスボンの街から逃げてきたらしいお。でも、それしか知らないんだお。
 気になることといえば、ツンさんの所為でリスボンが滅んだとか何とか……って感じだったかお」
「ん。つまり、あのエルという女がツンさんの命を狙っていて、彼女のいたリスボンもろとも破壊したと」
「………まあ、そういう事になるんじゃないかお」

ショボの握った拳は、机の下に隠してあった。
それに僅かだが力が入った。一瞬だけ、彼はツンに憎悪の感情を抱いたのだ。
だがすぐにショボは首を横に振ると、ブーンに向き直った。

「それよりもショボ。ツンさんの術を見たかお?」
「え? ああ、うん。術ね。確かに凄かったね」

虚ろになりながらショボはツンの術を思い出し、不思議に思う。
ツンの術の威力は、平均的な人間の力を遥かに超えていたのだ。
そもそも、教会の術士でもない者が術を使うこと自体が怪しい事でもある。
自分の術の素質に気付き、独学でそれを学び、破壊行為に使用する者も現実にいる。
いや、それとは違う様な気がする。ショボはまた深く考え出した。

「あの威力は異常だ。何か彼女の術で気付いた事ない?」
「お? そう言えば、彼女の杖の宝玉を見たことがなかったお。確か、銀色だったお」
「銀色の宝玉……? そして強大な術力……か。なるほど」

ショボが暗かった顔を上げる。
それはランプの光に薄暗く反射し、不気味さを醸し出す。

蛾は既に空へ飛んでいた。
ランプの光も、先程より小さくなっていた。

5 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:38:49.93 ID:VuC41SJj0
「恐らくツンさんの杖についているのは退魔銀。そして、ツンさんは単に潜在的な術力が高いだけ、だろうね」
「退魔銀?」

聞きなれない単語に、ブーンが鸚鵡返しした。

「退魔銀というのは伝説上の鉱物とまで言われるほど貴重なんだ。
 別名をミスリルと言ってね、トリーシャ様がお守りに付けていた事からこの名前がついたらしいよ。
 ちなみに今じゃ、世界中何処を探しても採れないんだ。つまるところ、それだけ術力増幅の効果があったって事さ」
「教会では使われていないのかお? そんな凄い鉱物……」

ショボが首を縦に振る。

「勿論、上層部のそのまた上層部では使われているよ。大司祭や大神官とか、その辺りの位がね。
 オルミア様やミルナ様のような唯の神官の位では、持つ事は許されない代物さ。だから僕達のような修士が見られるものじゃない」
「おったまげた鉱物だお」

感心するブーンをよそおいて、ショボは淡々と話していた。
やはり先程から目は虚ろで、ランプの光をじっと見ている。
そのランプの光、まるで儚げに散っていく命の様。油を消費する度、その光は消えていく。
ランプに止まっていた蛾は傍観者。その命を慈しみ、見ているだけの存在。
光が消える事は阻止できない。だから光を見る。
言うなれば、人生。生まれた時から人間は死へと向っている。
命こそがランプの光、油は時の流れ。そして蛾は他人。
だが、この蛾は消えかかった光を助ける事が出来る。それが、本物のランプと人生のランプの違い。

ショボはリスボン崩壊、そしてツンの事を未だに思い浮かべていた。
ツンという名のランプがリスボンで消える事、それが運命だったのではないか。
どちらにしろリスボンは滅んでいただろうが、ツンと言う憎悪の対象さえいなければ……とショボは思い、ハッとして表情を濁らせる。

6 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:40:31.21 ID:VuC41SJj0
いや、ツンが悪いのではない。
一番悪いのはエルという女だ。それは理解している。
だが、エルはもういない。だから、この怒りをぶつけることが出来ない。
そしてその怒りはツンに向っていく。自然な事だが、自分勝手なことであった。
おそらく、ツンにとってのエルは畏怖の対象となっているだろう。
が、自分にとってのツンとエルは憎むべき者。複雑だった。
それを悟ったのか、ブーンは席を立ち上がると、ショボに一声かけて部屋を出た。

後に残った部屋にはショボとランプの光しかなかった。
ショボは机の上にあったグラスにワインを注ぎ、口にそれを押し入れる。
ほろ苦い味が広がり、ますますやるせない気持ちになった。
そのままショボは机にうな垂れ、眠りについた。

煌々とするランプは先程よりも光の大きさを失っていたが、その存在を誇示するようにやはり光っていた。

また、蛾が一匹、それに止まった。






7 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:42:23.62 ID:VuC41SJj0
「う……ん」
「目は覚めたかい」

ツンが目覚めると、目前に男がいた。
釣り下がった眉が特徴的な、ローブを羽織った男。ショボだった。

「あれ、私は……?」
「術の使いすぎだ。眠っていたよ」

時刻は太陽が昇る頃だった。
朝焼けが窓辺から差し込み、それが部屋を照らしている。
ショボは窓辺に立ち、外の方を見ていた。右手に、並々と注がれたワインのグラスを持って。
そのグラスが光を反射し、ツンの目を少し眩ませる。

「……貴方は、何故私を助けたの?」

少女の突然の問いかけに、ショボはツンの方を向き直る。
その表情は、一瞬だけ鬼のようなものとなっていた。が、グラスに反射する光でツンはそれを確認できなかった。
ショボはやがて窓の方に向き直ると、ワインをクイと口に運び、淡々と語りだした。

「僕が助けたんじゃない。ブーンが助けたんだ」
「ブーン……? あの細目の男の人?」
「そうだ。だから僕に感謝されても困るね」

ショボが再度向き直り、冷たい視線をツンに向ける。
日の光は、雲に遮られた。ショボの露になった表情を見、ツンが一瞬身震いする。

8 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:44:31.51 ID:VuC41SJj0
「ご、ごめんなさい。貴方達、リスボンに用事があったんですってね……」

ツンが俯き、言う。
ショボは、それが気に食わなかった。言い知れない感情が湧き出てきた。
気付いた時、ショボは右手の握力でグラスを割っていた。
ガラスの破片はショボの右腕を傷つけ、真っ赤な鮮血を吹き出させた。
だが、ショボは痛みを感じない。それ以上に、怒りを感じている。

「君が…」
「……え?」
「君がいたから、リスボンは滅んだ!」

ショボはガラスの残る右腕を握り締めて言った。
やはり痛い。でも、この痛みよりもリスボンを壊された痛みの方が大きい。
嗚咽を漏らすツンに、ショボは容赦しなかった。
全ての責任を、やり場のない怒りをツンにぶつけた。

「僕の故郷はリスボンだ。僕がリスボンへ行く目的は教会のお使いだけじゃない。
 貧しいのに、必死に働いて僕を修道院へ行かせてくれた母さん達に会いたかった…!」

ショボは再度窓を向き直る。
雲が通り過ぎ、光が差し込む。
ショボの目筋が、少し光っているように見えた。

「ごめんなさい………」

ツンの嗚咽が大きくなっていく。
ベッドのシーツは、彼女の涙でぐっしょりと濡れてしまっていた。

ショボも何時の間にか平静を取り戻し、窓辺で一人空を見ていた。

9 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:46:22.05 ID:VuC41SJj0
「君は……なぜ、命を狙われていた?」
「え?」
「君が命を狙われている理由を知りたい」

ツンは少しきょとんとしていたが、慌てて思い出す。
だが、命を狙われた理由は全く分からない。
自分はリスボンから出たこともない。悪行もしたことがない。
ただ毎日、子供達を眺めていただけ。
ツンは、それをショボに話した。

「そう」

ショボは先程までの覇気はない声で、言った。

「僕が思い当たる節は君の術力だ。その強大な術力を狙おうとしている人がいる。それが、エル」
「私の術力…。でも、私は教会の人間じゃない…」
「だからさ」

ショボはツンの方を真っ直ぐ見据えた。
視線に憎悪はない。決意があった。

「君が教会に束縛されない白の術士だからこそ、狙われたんだ。
 おそらく、君………もしくは、君の杖を使ってエル達の一味は何かをしようとしている」

「その通り。ご名答」

突然、聞き知れない男の声。
ハッとして窓の方を振り向けば、その外に男が一人立っていた。
炯々とした赤の瞳が此方を睨む。ショボは一瞬だけ、その美しさに吸い込まれていた。

10 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:48:14.72 ID:VuC41SJj0
「誰だ、お前は」
「俺か? 俺はジョルジュ。お前は?」
「僕はショボだ」

ショボは左の手で杖を持ち、身構えた。
恐らく、ジョルジュはエルたちの一派。ならば目的はツン。
ここでツンを攫われれば、リスボンが崩壊した意味がない。
だからショボはツンを守る。その為に、ジョルジュと戦う事を決意した。
だが、ジョルジュは右手を前に突き出すと、

「俺はお前たちとやりあうつもりは無い。ただ、警告しに来た」
「警告…だと?」
「そう、警告だ」

ジョルジュが黒髪をかきあげ、マントを翻す。
光が消える。ジョルジュのマントが、太陽を遮っていた。
そして次の瞬間、ジョルジュの真っ赤な瞳が煮えたぎるような紅となった。
ショボもツンも、恐怖を一瞬覚えた。

「エルは死んだ」

ジョルジュの拳が震えていた。
その形相も、先程のショボと似ていた。
大切なものを、奪われたときの怒り。

「殺さなければ、街は崩壊していた」

ショボも言い返す。
ジョルジュは握った拳を開き、腕を組む。

11 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:50:04.83 ID:VuC41SJj0
「エルがお前に敗れたと言う事はもう過ぎたことだ。だから、俺はお前に一つ言っておく」
「何だ」
「これ以上首を突っ込むなよ。俺たちのことにお前が探りを入れるようなら……命はないと思え」

ジョルジュは何時の間にその手中におさまっていたのか、紅い剣の刃先をショボの突きつけながら行った。
だが、ショボは臆しない。ジョルジュに自分の杖の先端を突きつけ、言った。
マントに隠れていた光がやがて現れ、ショボの杖の宝玉が輝く。それは、ジョルジュの黒い姿を照らしていた。

「悪いけど、僕は諦めないよ。お前たちには、リスボンを壊されたと言う借りがあるからね」
「フッ……面白い」

ジョルジュは剣を腰におさめる。

「精々足掻け。蟻が動いた所で象はそれを気にもかけぬ」
「毒蟻は、象をも噛み殺すけど?」
「ならば毒を蓄えておくんだな。今お前たちを処分しない事には理由があるだけだ」

ジョルジュはそう言うと、背中を見せて立ち去って行った。
その背中が、何故かとても寂しいものに見えたのは、ツンだけだったのかも知れない。







12 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:51:58.65 ID:VuC41SJj0
「それで、これからどうするんだ?」
「さあ、どうしようか」

宿屋の小さな部屋で、ブーン達は今後の進路を話し合っていた。
ショボは勿論、ドクオとツンも何故かその場にいた。

リスボンが崩壊した現在、このままリスボンに向っても意味はない。
先にあるマドリアドという街までいけばお守りを買うことは出来るだろうが、その金はリスボンの道具屋に振り込んでしまってある。
よって、マドリアドまで行っても何も得をする事はない。
ならば、山の修道院に向おうと。ショボとドクオはそう提案していた。
だが、ブーンだけは嫌だった。元々これは自分に与えられた罰であり、それを放棄する事はオルミアの怒りを買うことになる。
まして退学になるくらいなら、如何にかしてでもお守りを手に入れたいと。それがブーンの言い分だった。

「そんなわけで僕としては、マドリアドに行きたいんだけどお」
「だから言っても仕方ないっての。俺がオルミアとかいう人には事情を説明してやるからさ」

ドクオがそう言うが、ブーンはやはり引き下がれない。
必死に反抗するブーンだったが、それをショボが沈黙させる。

「ねえ、ブーン。何かおかしいと思わない?」
「は? 何がだお」
「まあ、事がこうも早く進んでしまったならもう言ってもいい頃かな。
 オルミア様……いや、様なんてつける必要ないかな。オルミアの計画、知らない……よね」
「ど、どうしたおショボ」

ブーンは驚愕した。
ショボはオルミアを尊敬していた。
毎日のように挨拶だってしていたし、トリーシャの事だって崇拝している。
そのショボが、オルミアを悪の様に言っているのだから。

13 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:54:15.52 ID:VuC41SJj0
「エルっていただろ? 古文書で読んだことがあるんだ。ヴァンパイアって言う吸血鬼。
 双対の翼を持ち、大空を飛び回る人間。と言っても、トリーシャ様並に架空の存在だけどね」
「ショボ、どういうことだ?」

ドクオも黙ってはいられない。
まるでショボは、前々からエルという存在が来る事を知っていた様だからだ。

「最初に計画に気付いたのはギコ先生が襲ってきた時だ。
 腕を掴んだ時、術力が体を流れていなかった。つまり、あの時ギコ先生は死んでいた」
「は……!?」
「オルミアが僕とブーンをお使いと称して修道院を出したのは、邪魔だから。
 恐らく、チンポッポに僕達を殺させるつもりだったんだろう。でも、チンポッポが負けたのでエル達が動き始めた…ってのが多分正解」
「邪魔だからって、何がだお!」

ショボの言葉には、ツンまでもが動揺していた。
エルの動き始めた理由のそもそもは、ショボ達だといっているのだから。
朝のあの態度に疑問がわくが、それはショボが故郷を滅ぼされるとは思ってもなかったことの証明。
つまり、ショボも何処までが真実かも分かっていないのだ。

「ブーン、君はミルナ様から何かを教えられているはずだよ。それが僕達が邪魔な理由さ」
「…何のことだお?」

ショボは一呼吸置いて、言った。

「退魔銀の剣の事。ミスリルの剣と言われているかも知れない。聞き覚え、あるだろ」

ブーンの目が見開いていた。
それは、何かを思い出したかのようだ。

14 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:56:08.65 ID:VuC41SJj0
「銀の剣のことだお! ミルナ様に言われたことがあるお。
 紅き森の中に眠るとか何とかだお。でも、その退魔銀の剣がどうかしたのかお?」
「退魔銀は伝説上の魔族……つまり、ヴァンパイアなどに効果がある。
 ヴァンパイアは退魔銀に触れると灰になるとまで言われている。おそらくエルが消えたのは、退魔銀を媒介とした術の所為。
 エルは逃げたんじゃなく、灰になったんだ。今朝僕のところに来たジョルジュとかいう男も、そう言っていたしね。エルは死んだのさ」
「ジョルジュ!? 誰だ、そりゃ!」

ドクオが声を上げる。
ショボはツンの方を少し見ながら話し出した。

「今朝、僕のところに来た男だ。
 エルの死を悔やんでいた所から見ると、ヴァンパイアのようだね」
「良く無事だったなお。復讐されなかったのかお?」
「したかっただろうね。でも、出来なかったのさ。これの所為で」

ショボはそういうと、自分の腕に嵌めている金色のブレスレットを出した。
忘れもしない、山の修道院のふもとの村で買ったあのブレスレットだ。
鍍金はやはり少しはげていて、下地の銀がのぞいている。
その銀はさび付かず、美しいものだった。むしろ、鍍金を剥がした方が美しいと言えるのではないかと思うほどの、銀。

「鍍金は関係ない。下地の銀は退魔銀だ」
「おっ、おま! じゃあもしかして僕のブレスレットも!?」
「退魔銀製だ。闇市では退魔銀のことなど知らずに売る人が殆どだ。
 だから、とても安く買うことが出来た。と言っても、退魔銀と普通の銀を区別できるのは相当の術士だけだがね」

ショボは虚勢を張るでもなく、淡々と言った。
いつものブーンならショボに驕り高ぶっていると言うのだが、今回は言える雰囲気ではなかった。

15 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:57:20.30 ID:VuC41SJj0
「ジョルジュが僕を殺せなかったのは退魔銀を警戒していたからだ。
 触れたら消滅しちゃうからね。そこで、退魔銀の剣が必要になってくる」
「なるほど。その剣でヴァンパイアを斬れば、消滅させられるってか」

ドクオが頷き、ショボも静かに頷いた。

「そこでドクオ。君に一つ相談があるんだが」
「あ? 何だよ。まあ、見当はつくけどさ」

ドクオが苦笑いすると、ショボが初めてニッと笑った。
それは不敵な笑みだった。ブーンは思わず、背筋がゾクッとしてしまった。

「世界を救う……英雄になってみない?」

ショボの言葉に場の空気は一瞬固まった。
世界を救う英雄など、何処の誰かの妄想話と過ぎないと普通の人間は思うだろう。
だが、今回は違う。話しが真剣みを帯びている。
だから、ドクオもニッと笑い返した。不敵な、笑みで。

「いいだろう。俺がその剣で、世界を救う英雄とやらになってやろうじゃないか」

ドクオは席を立ち上がり、ショボに人差し指を突きつけてそう言った。


第五話:完


16 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 19:59:34.74 ID:VuC41SJj0
第六話「真紅の情緒」

マドリアドの手前、リスボンを少し北上した場所一体には森が広がっている。
リスボン、マドリアドと流れる聖河は森の中をそのまま続き、最後に帝都トリーシアに行ってまた広がる。
だが、マドリアドからトリーシアに行く際にこの森を通るものはいない。
この森の別名は真紅の森。まるで血のように染まった紅葉が、森を作っているのだ。
季節が秋を過ぎ、冬になろうともその葉は枯れ落ちる事はない。
一年中姿の変わらない、紅い森。誰一人として近づくものはいなかった。

伝説では、この森はトリーシャ時代の影響を受けた森だと言われている。
闇に覆われた世界で栄養分を失った木々は、死した人間の血を吸い、生き延びたと。
そして、血を吸った事により森の木は枯れず、紅く染まってしまったと言うのだ。
伝説に真偽があるものかは分からないが、兎にも角にもそんな不気味な森があると言うことだけは事実である。

その森に退魔銀の剣があると聞き、ショボとドクオはそこへ向っていた。


森へ行く前、ブーンが自分も連れて行けと言った
だが、ショボはそれを断った。
ブーンは勿論反抗したのだが、ツンを狙う刺客が来た時に守る者がいなくなると聞かせると、ブーンは黙った。
最近ではブーンは実戦経験を重ねた所為か、術力に向上の兆しが見えていた。
だからショボは、ブーンを足手まといとして置いたのではない。信頼して置いたのだ。
ブーンは自分に務まるだろうかと不安を募らせていたが、やがて自信を持ってそれを引き受けた。
ショボとドクオは、安心してリスボンの手前の街を出、マドリアドの近くにある森を目指した。

途中、マドリアドを見た。
いや、マドリアドだったものだ。
ショボが知っているような活気はなく、荒廃した唯の廃墟だった。
ドクオを外で待たせて、ショボは一人その廃墟に入って行った。

17 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:01:27.19 ID:VuC41SJj0
廃墟の中は瓦礫と灰と、死体でいっぱいだった。
既に固まっているが、血の水溜りであったろうものが何処を見てもあった。
建物に下敷きにされた人が潰れたのだろう。見ていて痛々しいものだと思ったが、ショボは特に何も感じなかった。
街の真ん中まで来ると、道具屋が目に入った。
本当なら、ここに来て旅は終わりだったのだろうか、とショボは思ったが、首を横に振った。

オルミアの目的は知っていた。
虚勢を張ったが、本当はミルナが殺される所をショボは目撃していたのだ。
ある夜、ショボがトイレに行こうと廊下を歩いていると、ぬうっと黒い影が立ち上がったのだ。
それは次第に大きくなり、何処かへ向おうとしていた。
ショボはひっそりと後を付けた。やがてその影はミルナの部屋へと消えて行った。
その直後、ミルナの短い悲鳴が一瞬だけ聞こえた。ショボは何が起こったのか分からず、震えていた。
影はそのままショボのことを気にせずに通り過ぎ、オルミアの部屋へと消えて行った。
ショボがこの事件から全てを悟ったのは、それから二年後だった。
二年後のその日、オルミアが講師の術の授業中。ショボは気付いた。
オルミアは雅の術を得意としていたのだ。それは、影だろうが虫だろうが、死人だろうが操った。
そしてミルナが死んだ後、神官となったのはオルミア。これでショボは理解した。
オルミアがミルナを殺した事を。

だが、同時に疑問にも思った。
オルミアは優秀だった。ミルナを殺さずとも、神官になるほどの実力は持っていた。
ならば、何か別の目的があったのではないか。ショボはそうして、探りを入れた。
そんなある時、ミルナに拾ってもらったと言う生徒、ブーンの存在を知る。
ショボは極秘で彼の部屋を調査する。そして、ミルナが書き上げたであろう退魔銀についてのレポートを発見した。
そこで退魔銀のことを知った。ヴァンパイアのことを知った。ミルナが求めていた退魔銀の剣の事も知った。
その日からショボはブーンに接するようになった。
レポートを写させてやったり、朝のお祈りの時間にたたき起こしたりしてやった。
その結果が、現在だ。見事にショボはミルナの目的を告ぎ、退魔銀を発掘する手前まで行った。

18 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:03:14.39 ID:VuC41SJj0
正直な所、ブーンが退魔銀の事を聞いているかどうかと訊ねたのは憶測だった。
ミルナほどの術師が拾った子供なのだ。何か、潜在的なものがあったに違いない。
いや。もしくは剣士として育て、退魔銀の剣を後継させる予定だったのかもしれない。
だから、保身の為にブーンには剣の在り処を言っているのだろうと。憶測は正解していた。
だが、得た情報は真紅の森の何処かにあるということだけ。だが、ショボはミルナの為に諦めなかった。

別に、ショボはミルナに恩があるわけではない。
ただ、父親がミルナと同期の神官で、昔に良くして貰った事があるだけだった。
その父はミルナよりも数年前に何処かで死んだ。殉職だったのかさえ分からない。
とにかく、それから家は貧しくなった。生活をする為にショボは働き、一家を助けた。
そんな時、ショボはトリーシャに縋ったのだ。神がいるものなら助けてくれと、祈った。
やがてショボは修道士になる事を決意する。ミルナが多少の金を免除してくれて、ショボは修道院にはいった。
だから、ショボはせめてミルナの遣り残した事をやりたい。唯、それだけだった。

廃墟を進み、実家の前まで来た。
ショボの家は、倒壊していた。すっかりその辺りは瓦礫で埋もれてしまっていて、母の生死も確認できない。
ショボは暫く下を向いていたが、やがて大空を見る。
鳥が一羽、飛んでいた。ショボはそいつをキッと睨みつけると、咆哮した。

19 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:04:04.66 ID:VuC41SJj0
「ヴァンパイア!! よく聞け!!
 僕はこれから退魔銀の剣を手に入れる! そしてお前たちを倒す!
 お前は僕からいろいろなものを奪いすぎたんだ! 家族も、尊敬する人も!!
 赦さないぞ! 絶対に赦さない! 復讐でもなんでもいい!! 僕はお前たちを倒す!!」

喉の、いや、腹の奥から叫んだ。
喉がひりひりと痛くなるほどの大声を出した。
やがてショボは力なくうな垂れ、廃墟に寝そべって空を見上げた。
先程の鳥は何回か旋回すると、やがて太陽の方へ消えていった。
後に残った日の光が、妙にまぶしかった。








20 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:05:52.58 ID:VuC41SJj0
やがて、二人は真紅の森へたどり着いた。
真紅の森という名だけあり、本当に目前が全て紅に染まっていた。
木の幹は茶だが、その葉は全て紅。地面に落ちる無数の落ち葉も紅。
その先の何処かに、求めている退魔銀の剣がある。
ジョルジュとショボは頷きあい、森の中に足を進めた。

だが、それを阻止する影が一つ。
ドクオとショボの目の前から、不意に現れた。

「ジョルジュ……」

ジョルジュだった。
相変わらず炯々とした紅い目はこちらを凝視している。
マントはとっていた。肩まで伸びる黒髪がそのせいか、妙に目立った。
腰に挿すのはあの時付けられた紅い剣。
ジョルジュの風貌は、あの時とあまり変わっていなかった。

「後を付けさせてもらった。そして、退魔銀の剣のことを知った」
「ご苦労様なこったな」

ドクオは腰から剣を抜いた。
戦闘態勢になったのはドクオだけではない。
ショボも青い宝玉のついた杖を構え、ジョルジュと対峙した。
ジョルジュの目はやはり憎悪の紅に染まっている。それは、リスボン崩壊を知ったショボの目と同じ。
ならばつまり、ジョルジュは過去の自分の幻影だ。

21 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:07:36.12 ID:VuC41SJj0
「お前たちがミアの使いだったと言う事も知っている。ミアには全て報告させてもらったよ。もう知っているんだろう、全て」
「ミア……オルミアの事か。まあね、知っているよ」
「なら話は早い。俺たちはヴァンパイアだ。伝説上の生き物と思っていたのかもしれないけどな。こうして存在しているんだから仕方ない」

ジョルジュが嘲り笑うのと同時に、ショボも苦笑した。
それが気に食わなかったのか、ジョルジュは渋い表情をして紅い剣を抜き放った。

「いいのかい? 僕は退魔銀を持っているよ?」
「所詮腕輪だ。当たらなければどうと言う事は無い。あの街で警戒せず、殺しておくべきだったな」
「全くだね。あの時、殺されるんじゃないかって冷や冷やしていたよ。
 君が相当警戒してくれたおかげで助かったよ。まあ、そのせいで君はここで斃れるんだけどね」

風が吹いた。
紅葉の落ち葉が空を舞い、ショボとジョルジュの髪をなびかせる。
二人はじっと対峙していた。石のように。鏡に映った姿のように。
どちらも動かない。唯一人、ドクオだけが場から取り残されていた。

「ドクオ」
「……なんだ」
「こいつは僕が引き受けるよ。君は退魔銀の剣を取りに行くんだ。
 君が退魔銀の剣を持って必ずここに戻ってくること、僕は信じてるからね」

ドクオは一瞬だけ困惑した。
ショボを一人残していいのか? 術士とヴァンパイアでは力の差が歴然としているのではないか?

だが、すぐに考え直した。
ヴァンパイアに止めを刺すには退魔銀が必要なのだ。
エルのときはツンの退魔銀の杖があったからいい。
だが、今の状況ではジョルジュを確実に倒せる武器が存在しない。
だからショボが時間を稼ぐ。それだけのことだ。

22 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:09:25.85 ID:VuC41SJj0
ドクオは何も言わずに森の奥へ駆け出した。
ジョルジュはそれをただ見ていた。追おうともしない。
やがてドクオは風と共に森の奥へ消える。後に残ったのは、ショボとジョルジュだけ。
ジョルジュの視線はドクオからショボに移り、また二人は対峙する。

……やがて、風が吹き。
一枚の紅い葉が、二人の間を舞い、そして散った。


瞬間、ジョルジュは動いていた。紅の剣が間髪をいれずにショボに向う。
だがショボは動揺せず、腰を引き、印を結ぶ。
次の瞬間、木々のツタが蠢く。そしてそれはショボを守る盾となり、ジョルジュの攻撃を確実にガードする。
だが、ジョルジュがツタを攻撃した瞬間、ツタは灰となった。
ツタは、一瞬のうちに燃え去ったのだ。それほど強い火の威力。
ショボは体勢を直し、間合いをあけた。

「炎使いか」
「ご名答。俺の剣は炎の剣。剣に触れれば火傷では済まないぞ」

周りは木々。
ジョルジュが剣を振るえば、この森を燃やし尽くす事も容易だ。
だが、それは自分の見も同時に危険に晒す事になる。
つまり、ジョルジュが使用する炎の範囲はかなり小さい。
迂闊に落ち葉など燃やさないように、炎を制御しているのだろう。
ならば、その好機を窺うしかない。

23 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:11:20.34 ID:VuC41SJj0
「行くぞ!」

ジョルジュが叫び、突進する。
だが、そこのにあったのはショボの虚像。
水鏡の作り出した虚像を、ジョルジュの剣が貫く。
炎の剣が水浸しとなるが、それによる鎮火を期待していたわけではない。
どうせ、すぐに蒸発させられるのがオチだ。だからショボは、チンポッポの時と全く同じ手を使うことにした。

そう、次に轟いたのは雷鳴。
ジョルジュの剣に向って、一直線に向い落ちた。
このまま剣に雷撃が当たれば、剣を通してジョルジュは体を内から焦がされるだろう。
ジョルジュは雷撃に気付いていた。だから、避ける事は容易だっただろう。

次の瞬間、目の前が発光する。
ジョルジュの剣に稲妻が落ちたのだ。
ジョルジュはその場に倒れ、体を麻痺させていた。
剣を持つ手に力が入らないのだろう、炎の剣はその場に落ちていた。
ジョルジュはそれを拾おうともせず、ただ不敵に笑っているだけだった。
ショボはそれを見て、不思議な感情がわいてきた。

「何故………避けなかった」

ショボは気付いていた。
ジョルジュがわざと雷撃に当たった事を。
それにドクオを追わなかった。ドクオが退魔銀の剣を携えて戻れば、確実にジョルジュはやられると言うのに。
ああ、そうか。ショボはハッと気付いて、ジョルジュを悲しい目で見つめた。

「死ぬ気……だったのか。お前……」
「…………………フフ」

24 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:13:11.32 ID:VuC41SJj0
ジョルジュの口元が動く。
ショボはすぐに麻痺を解く術をかけた。
もうジョルジュが襲ってこない事は分かっていた。何故か、それが分かっていた。
だが、快癒の術はかけない。ジョルジュにとって、この苦痛こそが今は幸せなのだろうと、理解していたから。

「エルは俺の恋人だった。俺はエルを信頼していた。だからミアがツンと言う女を処分しろと言った時、エルに任せてしまった。
 もしもあの時リスボンへツンを処分しにいったのが俺だったなら……未来は変わっていたのだろうな。俺が死んでいたのかもしれないけどな」
「エルは好戦的な性格だったのか」
「ああ。だから、リスボンもろとも壊しちまったんだな。俺だったら、ツンを暗殺するだけにとどめておいたがな」
「お前の言う事に、気に食わないが同意してやる」

紅い落ち葉が舞い散る中、二人は旧友のように笑っていた。
もはや戦意はお互いにない。ただ、今は胸のうちを空っぽにしてしまいたかった。
ジョルジュもショボも、お互いが似たようなもの同士だということに気付いていた。
だから胸に秘めた感情をぶつけられる。それが二人にとっての、今は最高の安堵となる。

「エルの後を追うのか?」
「そのつもりでお前らのところに来たんだ。ヴァンパイアは、退魔銀無しに死ぬ事はできん」
「オルミアを……怨んでいないのか?」

ジョルジュの口元が歪み、顔は下を向く。
拳を握り締めていた。目元には、微かだが涙が見えたような気もした。

「怨まないはずは無い。俺たちは所詮、ミアに操られていた人形に過ぎないのさ。
 エルが死んだと報告した時のミアのあの顔。何も感じてなどいなかった。ミアはそんな奴だ」
「分かるよ。オルミアがミルナ様を殺した次の日、アイツはとても普通だった。
 人の死ぬ事に何の躊躇いも持っちゃいないんだな。そしてそれを目撃した僕を殺そうとする事も、如何でも良い事だったんだろう」

25 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:15:13.09 ID:VuC41SJj0
少しだけ、静寂が空間を支配した。
風の音だけがひゅうひゅうと聞こえる。ドクオが戻ってくる様子はまだ無い。
やがて口を開いたのは、ショボの方だった。

「一緒に来る気はないか? 僕達はオルミアを倒しに行く」

ジョルジュは、すぐに首を横に振った。

「俺は罪を背負いすぎた。ミアの事はお前たちに任せて、エルと居たい」
「………そうか」

ショボは、ジョルジュを引きとめようとしなかった。
ジョルジュにとっての幸せは、痛みなのだ。それはジョルジュが特殊な性感の持ち主という意味ではない。
今まで自分の背負った罪の分だけ自分が痛む事で、ジョルジュはそれを無にしようとしているのだ。
そして最後は、自分の死でそれを償おうとしている。それはただ、極悪人を処刑するのと同じだけ。
だからショボは止めない。それがジョルジュにとっての幸せでもあり、世間の望む事でもあるのだろう。

「あの剣士が来たら、俺を殺すように言え。もし反抗するなら、お前が俺を殺せ」
「いいんだな? 本当に、それで」
「ああ」

ジョルジュの炯々とした瞳に、初めてショボは輝きを見た。
ああ、こいつはこんなに綺麗な瞳をしていたんだな。と、思ってしまうほどだった。

「ショボ。一つ警告する。ミアは退魔銀の剣を恐れてトリーシアの東、オズヴァに逃げた。
 オズヴァにはヴァンパイアの集まるギルドがある。と言っても、その数は少数だし、俺たちよりも弱いけどな」
「退魔銀の剣があれば、行けるか?」
「退魔銀の杖まであるなら尚更な。だが、ミアはとても強い。覚悟だけはしておけよ」
「ああ」

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:15:39.33 ID:D9l24APi0
セイントって何?

27 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:16:33.04 ID:VuC41SJj0
二人は、親指を立てて笑いあった。
その姿は、もはや戦友としか思えないほど、紅の森に美しく映えていた。
そしてそこに落ちている紅の剣を、ジョルジュはゆっくりと拾い、ショボに差し出した。

「俺の剣を持っていけ。唾に杖の先の宝玉をはめ込めば、炎の魔法の威力だけは格段に上がるはずだ。
 ヴァンパイアには、退魔銀だけでなく炎も効く。ミアの元に集う下級のヴァンパイアなら、俺の剣で倒せるだろう」
「そうか。お前だと思って持って行ってやるよ」
「光栄だな。さて、そろそろ時間のようだ」

ジョルジュの視線の先には、銀色に美しく輝く剣を持った男が此方へ向っている姿が見えた。
ドクオである。見慣れぬあの銀の剣こそが、退魔銀の剣なのだろう。
柄から唾まで青みを帯びていて、刀身は美しい銀。見るものを魅了するその姿は、神々しさを湛えていた。
やがてドクオが、ショボとジョルジュの間に立つ。
だが、戦意を喪失した二人を見て、ドクオは困惑してしまった。

「勝負はどうなったんだ?」

ドクオの問に笑って答えたのは、ジョルジュだった。

「俺が負けた。だからお前は俺を殺さなければならない。分かるな?」

ドクオは動揺した。
ここまで思い切りがいいとは。
それに、負けたといっても外相は殆ど見当たらない。
ショボが雷撃で内側から攻撃したのだろうと想像はつくが、それでいてもまだ戦闘が続行できそうなのに。

「いいのか? 本当に?」
「ああ、早くやれよ。でないと、決心が鈍っちまう。なあ、ショボ」
「……そうだな。ドクオ、早くそいつを逝かせてやれ」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:16:38.02 ID:UJ2ZJZWc0
文量すごいな

29 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:17:15.19 ID:VuC41SJj0
>>26
セイントには聖者という意味があります。
聖闘士ではないんです(><;

30 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:18:03.13 ID:VuC41SJj0
ジョルジュも、ショボも泣いていた。
嗚咽など漏らさず、ただ天を見上げて涙を流していた。
ドクオはそこで悟った。ジョルジュが、エルの後を追おうとしていることを。
そして、ショボもそれを認めている。ジョルジュは、死ぬ気でここに来たという事か。

「なあ、ジョルジュ。最後にいいか?」
「なんだ?」

今正に剣を振り下ろそうとしたドクオを静止させたのは、ショボの震えた声だった。

「僕とお前さ。こんな形で出会わなかったら……」
「いい友達になれたかもな。残念だ」

ショボはジョルジュと逆の方を向いた。
そして、更に震える声で言葉を続けた。

「………向こうへ逝っても、仲良くな」
「分かったよ。じゃあな」

ショボが聞いたジョルジュの声は、それで最後だった。
後ろで、何かが消える音をはっきりと聞いた。
おそらくでもない。退魔銀の剣が、ジョルジュの体を消滅させたのだ。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:18:08.99 ID:D9l24APi0
まほろまてぃっく

32 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:19:13.68 ID:VuC41SJj0
そのままショボは空を見上げた。
大空を、鳥が一匹飛んでいた。先程、リスボンで見たあの鳥に良く似ている気がした。

「なあ、ジョルジュ」

ショボはその鳥に向って手を伸ばした。
勿論、届きはしない。届きはしないが、必死の手を伸ばした。

「お前ももう……自由になれたのか?」

ショボは鳥に伸ばした手と逆の手でジョルジュの剣を握り、それを大空に突き出した。
既に時間は夕刻になっていて、夕日に映えて炎の剣は更に紅く染まっていた。
一面を全て紅が支配するその中、ショボの青い瞳だけが凛々と輝き、茜色の空の果てを見ていた。


第六話:完


33 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:21:06.67 ID:VuC41SJj0
今回の投下分はここまでです。
初期に宣言したとおり、全12話構成なのでここで半分となります。
今は起承転結の転、これから結へと一直線に向います。
今回の話は完成だけを目処にしたので、文量は少なく、描写も手抜きになってしまいました(´・ω・`)
来週の日曜日に七、八話を投下しますので、どうか見てやってください。



34 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:22:28.56 ID:VuC41SJj0
ついでに僕は人間性レベルが低いのでコメントを付けてくれる人がいないのがちょっと寂しいです(´・ω・`)
さるさん回避って何ですか?(´;ω;`)ウッ

このスレはこのまま落としてくださって結構です

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:23:19.12 ID:zkL471oE0
>>26
怪盗セイントテール

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:24:25.02 ID:D9l24APi0
元ネタがあったら伸びる

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:26:54.25 ID:kJsACNcm0
VIPなのに、避難所並みの反応でちょっとカワイソース

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:28:08.90 ID:68wXfg0z0
かわいいブーンのAAマダー?


39 名前: ◆X5HsMAMEOw :2006/09/17(日) 20:28:41.87 ID:VuC41SJj0
所詮僕は人望が薄いのですよ(´・ω・`)ショボーン

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:30:11.69 ID:5bohUtvz0
それが豆男クオリティ

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:30:19.15 ID:kJsACNcm0
まあ元気出せよ



話は見てないけど

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:30:44.49 ID:OOLlM++iO
>>37
つまらないから仕方ないよ

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:47:06.84 ID:VuC41SJj0
(´・ω・`)

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:48:55.12 ID:D9l24APi0
(・ω・`)

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/17(日) 20:50:13.87 ID:EkVlZJsWO
クオリティも去ることながら、自演とかしてるのが悪い。そりゃ人も離れて行くっての。
自業自得


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