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( ^ω^)ブーンがセイントになったようです
1 名前:小豆男◇X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 16:55:55.55 ID:uZKb4BQP0
http://boonsoldier.web.fc2.com/seinto.htm

で纏められていますが、数ヶ月多忙でショボーンしていた為最初から投下します(´・ω・`)
所々手直ししてあります。

厨臭いのはスルーしてください(´・ω・`)

2 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 16:57:59.81 ID:uZKb4BQP0
ブーンがセイント(聖者)になったようです。

プロローグ「神様の存在」


神様はこの世にいると思いますか?
と問い訊ねられたなら、貴方はなんと答えるだろうか。

神様なんていう概念自体が間違っているのだと、何処かの宗教家以外の人間ならそう思うに違いない。
それはそうだ。神なんて存在は、弱い人間が作り出した寄辺でしかない。
仮に神なんて存在がいたとしたならば、世界のゴミに該当する人間なんて当に滅んでいると想定して良いのではないか?

だってそうだろう。
兵器だの何だのを使って自然をことごとく打ち砕き、他の動物を自然界から追いやり。
それなのに、労わりの精神だか何だかっていうものを主張して、自分が善だと思い込んでいる阿呆もいる。
愛が世界を救うだの何だの? そんな馬鹿げた事があるものか。
……と、僕は心の中で度々思うのだ。

神様は、大抵の書物では人間同士の争いごとが嫌いなんていうイメージで出てくる。
それを見かねて、制裁するとか、そういう類の書物は今までに何冊も読んできた。

だが、そんなのも人間が作り出したお話でしかない。
神様がいたとしても、人間なんかには無関心じゃないのか?
神様が世界をどうにかしようって言うのは、神様が世界を作成、もしくはそれに何らかの形で関与した場合に限られる事ではないか?
これがどうしたと言うその答えは、個人の持つ神というイメージを形作る概念が、それぞれ違うと言う事だ。

3 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 16:59:50.79 ID:uZKb4BQP0
あ、でも、人間って窮地に立たされたときは、神様に助けを乞うよね。
そういう意味では、全ての人間が神様を信仰しているのかもしれない。



さて、話を少し変えよう。
かつて神様がいたという伝説が、今ではこの世界に広まっていると言う事について、だ。

おかしいと思うだろう? 僕は少なくともそう思う。
それに対する確実な根拠も、今のところは無いようだし。
だが、一部の宗教家どもが妄信するだけではなく、国民の半分近くがそれを信仰しているというのが驚きだ。
今では神様の影響は政治経済にも大きく関わり、信者の団体を刺激するような事があれば急激なインフレーションも起こりかねない。

その団体の名前は、『トリーシャ教』。
トリーシャ様の教えを説く会、という意らしい。そのままだな。
ちなみにトリーシャ様と言うのは、そのお偉い神様の名前である。名前の響きから分かるかもしれないが、女神だ。
そのトリーシャ様が何故ここまで信仰されるのか? それに至っても理由がある。

4 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:01:09.11 ID:uZKb4BQP0
果てさて、ここで事は数千年前にまで至る。
世の中は安定しており、今とは違う均整な世界がそこにはありました。

しかしある日突然、何処からともなく闇が現れました。
闇は瞬く間に世界をすっぽりと覆いつくし、日の光さえ隠してしまいました。
おかげで作物は育たなくなり、町を照らす電気にかかるお金もバカにならない。
人々は次第に混乱し、世界には恐慌が起こりました。

そんな時、一人の田舎出身の娘が立ち上がりました。
彼女は毎晩神に祈りを捧げ、世界の救済を乞いました。
その祈りのかいあってか、気付いた時、彼女は女神となっていたのです。
女神となった彼女は闇を振り払い、人々を救済しましたとさ。


これは、僕の教科書に載っている神話を簡略したもの。
中途は省略しているが、物語の大まかな筋だけを語ればこれで十分だろう。
要するに、トリーシャはその深い信仰により女神となり世界を救済した。
世界を覆った闇の詳細などについては一切不明。一説では、暗黒の魔王(?)の仕業とも言われている。
とりあえず、トリーシャはこれを女神なる力で吹き飛ばした。
女神様の事は、大体こんな感じだ。

5 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:02:12.10 ID:uZKb4BQP0
さて、物語にはもう少し続きがあってだ。
これはトリーシャの死後の話である。

トリーシャの死後、彼女を信仰していた人々は嘆き悲しみ、彼女の生きていた証を作ろうとした。
最初のうちはブロンズやシルバーの像を作るだけに留まっていたが、狂信者はそれで満足しなかった。
そこで発足したのがトリーシャ教。彼女の教えを後世にも残そうと、狂信者達が作ったのだ。
そのトリーシャ教が現在までも残り続け、人々の寄辺になっていると言う事らしい。



最初にも言ったが、僕は神様なんて存在は信じない。
だから、トリーシャなんて神様がいるのも嘘っぱちとしか思っていない。

故に、僕は時々この修道院で神学を学んでいるのを不思議に思うことがある。
僕が修道院にいる理由こそがトリーシャ教が愛される理由でもあるのだが、今では少しそれに不服もある。

トリーシャ教は、道を失ったものに手を差し伸べる。
つまり、孤児やそれに等しいものに生活を提供するのだ。
その代わりに、世話を見る人間には必ず神学を学ばせると言う律儀さ。
僕も、そんな犠牲者の中の一人である。

6 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:02:44.99 ID:uZKb4BQP0
だが、僕にもある日、転機というものが訪れた。
これは、僕の人生のターニングポイントになった出来事といって過言ではない。
神を信じていなかった僕が、信じざるを得なくなった出来事。
それはあまりにも衝撃的で、当時の僕にとっては辛いことでもあった。


現在は暇なので、ここに少し思い出を書き残しておこうかと思う。


                                 〜大神官ブーンの手記 序章より〜

7 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:04:18.35 ID:uZKb4BQP0
第一話「修士の日々」


最初に不運だと思ったのは、山頂に建物があったことだ。
他人からは山頂の空気が薄いとか、それを利用した高山トレーニングまであると聞かされていたが、ここまでとは。
とにかく、朝目覚めた時の気分がいただけない。
酸素を思い切り吸い込むことも何か出来ないし、雲がかっていて朝日もよく見えない。
目覚める、という事はイコールで日の光をさんさんと体に浴びる事だろう?
それも出来なくて、挙句には温度調節を冷房や暖房で賄っている所を見ると、やるせない気持ちになる。
そもそも、こんな高山地帯に建物を建てなければいいのに。
激しい運動の後、酸欠で倒れる生徒も希にいるのだぞ。
だのにこの学校の無能教師ときたら、お前たちの鍛錬が足りないだの………ふざけている。

大体が、朝の五時に起きろというのが特にふざけているのだ。
健康児なら、ぐっすりと朝は………そう、日の昇るころまで寝ていなければならない。
寝る子は育つ、という位なのだから、起きている時間の分に割のあわない睡眠時間は腹がたつ。
ちなみに就寝は二十二時。お祈りしてから眠るとか、正直な所どれだけだと思った。

8 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:05:46.93 ID:uZKb4BQP0
そんなこんなで、僕の目覚めは今日も今日とて宜しくなかった。
温もりの僅かに残る布団から這い出てカーテンを開けても、どよんとした空が広がるだけ。
辺りの景色はというと……草木なんて殆どない。ごつごつした岩肌が目前には広がっている。
ガラス越しに写る自分の姿も、なんだかいつもよりやつれて見える。
少し溜息を吐いた後、僕は何も言わずにカーテンを閉めた。

現在の時刻………四時半。少し早く起きたな、珍しい。
僕は朝に強い体質ではなく、修道院に来たころなんかは寝坊の常習犯だった。
そのおかげで何度無能教師に呼び出された事か。
朝早く起きる事の何が、トリーシャ様への信仰へと繋がるというのだろうか?
全くもって理解できないし、理解しようともしたくない。
お偉い人の考えている事は、僕には全くもって分からなかった。

9 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:08:02.67 ID:uZKb4BQP0
その後は、遅刻するのも嫌なのでさっさと法衣に着替えた。
僕の法衣は、修士五級のもの。ちなみに修士五級というのは、階級で言うと下位に当たる。
そこから四級、三級と行って、一級、特級、神官とどんどんランクが上がっていくのだが、それは試験の成績によって決まる。

果てさて、僕の成績ときたら酷いものだ。
試験には筆記と術のテストと、二つがあるのだが。
無能な僕は、どちらをやってもダメダメ。
筆記はまだしも、術に関しては才能がないのだろう。
術としては初級である治癒すらロクにできないのだ。
いい加減、無能教師も僕に愛想を尽かしてきている。
この調子で修道院をやめることが出来たら、どんなに幸せだろうか…。


いつの間にか、時刻はもうすぐで五時になろうとしていた。
五時からは、朝の祈りと称した黙祷の儀の様なものがある。
一時間、黙祷(神に祈る)をするのだ。誰も一言も喋らずに正座して。
暇といったらありゃしない。これが日課だから更にだ。
外の山は寒いというのに、生徒は法衣を一枚羽織った状態で黙祷しっぱなし。
暇だし、寒いし、良いことなんて一つもなかった。
それでも、クソ真面目な生徒は熱心にお祈りしているのだ。トリーシャ様の力の偉大さを感じるよ、まったく。

10 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:09:23.71 ID:uZKb4BQP0
さて、そろそろ部屋を出ねば。
木製の簡素なドアを開いて廊下へ一歩踏み出した時、僕は誰かが此方へ向かってくるのが目にはいった。

あのブルーの豊かな髪に……修士三級の法衣。
ああ、あれは。僕の友人でもある、クーだ。
僕と同時期に修道院に入り、ぐんぐんと成績を伸ばしていった。
今では、級に随分と差がある。下級は上級に敬語を使う規則があるが、知ったこっちゃない。

「クー、おいすー^^」

僕の間の抜けた声がクーに聞こえたらしく、彼女は小走りして僕の前にやってきた。

「やあ、ブーンじゃないか。これから朝のお祈りだな」

ちなみに、ブーンというのは僕のあだ名。
本名は内藤ホライゾンというのだが、何故こんなあだ名を付けられたかは、あえて触れないでいて欲しい。

「お祈りというか、黙祷だろ? 暇な事この上ないお……寝ていたいお」
「ハハ、そうかい? 私はトリーシャ様に祈りを捧げていられる瞬間が一番落ち着けるよ」

一瞬、こいつも頭がおかしいのだなあと思ってしまった。
まあ、人それぞれによってトリーシャに対するイメージは違うんだろうけども。
僕のトリーシャに対するイメージは、どうでもいいもの。
対してクーのトリーシャに対するイメージは、寄辺。
偶像崇拝でもしているような集団を、僕はいつの間にか蔑んでいるようになっていた。

11 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:10:39.78 ID:uZKb4BQP0
僕とクーは、廊下をゆたゆたと歩いていた。
寒い冷たい岩肌の上で行われる、つまらない黙祷をしに行く為に。
もっとも、そう思っているのは僕だけかもしれないのだけれど。恐ろしい事だ。
静かなのも難なので、クーに会話を持ちかけてみよう。

「クーはトリーシャ様への信仰があついねだお」
「む、そうか? 修道院にいる人間はみんなトリーシャ様を信仰しているのだろう」
「そうでもないお。僕は実際、あんまり神様とか信じてないんだお」
「? では、ブーンは何故修道院にいるんだ?」

当然の疑問だ。
修道院なんて、僕は進んでくる事は先ずない。
そんな僕が今修道院にいる理由は一つ。孤児だったからだ。
戦争で親を亡くし、行き場を無くして彷徨っていた所を、ここの神官の一人であるミルナ様に拾っていただいたのだ。

それから暫くはミルナ様の恩義に報うべく勉強に熱心になっていたが、ミルナ様が亡くなってからどうでもよくなった。
考えてみれば、神様を信仰だのどうのなど馬鹿馬鹿しい。
戦争が耐えないこの世の中で、自愛の精神を持とうとするのもおかしい話である。
今すぐ修道院なんてやめてしまいたいものだ。
だが、修道院をやめるにもリスクがいる。

僕は孤児の出で修道院に入った。
年会費など、全て修道院が持っている。
神官となればそれは全て免除されるが、中退する時はその金額を全て払わねばならない。
生憎だが、そんな金を僕は持ち合わせていない。
だから、やめることも出来ない…………いつか脱走してやる。

12 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:12:06.50 ID:uZKb4BQP0
「僕が修道院にいるのは、孤児だからなんだお」

クーには、そう返しておいた。

「そうか、ブーンは孤児だったのか。つまり、誰かに拾ってもらったんだな」
「うん、以前まで神官だったミルナ様に拾っていただいたんだお」
「ミルナ様というと………二年前に亡くなったあのお方か」

ミルナ様は、二年前に亡くなった。
病気でも、自殺でも寿命でもない。他殺だった。
誰が殺したとか、そういったことは現在でも不明である。
死因は、術によるもの。よって犯人は、僕らと同じ術を使える訓練を受けた者だ。
けど、ミルナ様はとても強かった。その術の威力、大陸でも本当に上位に入るものだろう。
そんな彼を殺すほどの術師が犯人。
だが、手がかりはそれだけ。犯人が早く捕まる事を、僕は願っていた。

「ミルナ様は偉大な神官だったな。術の威力も相当なものだったし、性格も優しかったしな」
「お? クーもミルナ様と何か関わった事があるのかお?」
「知らなかったのか。私は、ミルナ様から術の講義を受けていたんだ。だから、何度も話したこともあるんだ。言えば恩師だな」
「そうだったのかお・・・…。ミルナ様は人徳の厚いお方だったお。何故殺されたんだお……」
「私も同感だな。残念でとても悔しいよ。いつの日か神官となり、犯人を見つけ出してやりたい」

クーは拳をぎゅっと握り締めていた。
その悔しそうな表情には、僕も共感できる。
ミルナ様は、僕が唯一尊敬する神官だからだ。

13 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:13:42.61 ID:uZKb4BQP0
さて、そうこうしている間に、冷たい風の吹く岩肌にやってきた。
何処までも岩が広がるその様は、まるで壊滅した世界を思わせるが如く。
尾根の方に行けば川や木はあるが、この中腹部にはそういったものが一切ない。
乳色の朝霧が薄っすらと場を覆い、視界もあまりままならない。
全くもって僕は山が嫌いだ。太陽も、最近あまり見ていないし。

……太陽を見てないって、これは僕が引き篭もり故に言った台詞ではないぞ。


「さて、お祈りだな。じゃあ、後でな」
「また後でだお」

クーとは軽く手を振っただけで分かれ、僕は修士五級の列へ行く。
黙祷の時の隊列は、来た者の順からどんどん後ろに並んでいくという単純なもの。
ちなみに、前に行こうが後ろに行こうが寒いことは変わらないので、隊列の事はどうでもいいことだった。
唯一の利点といえば、後ろのほうが教官の目がつきにくいということか。
教官は、僕らと向かい合う形で瞑想している。
そして、時折目を配らせ、祈りを疎かにしていない者がいないかをチェックする。
ちなみに僕は何回かそれで見つかり、反省文だの体罰だのを色々受けてきた。酷いもんだぜ。

クーと話してきたからかは知らないが、今日は少し遅めに来たようだ。
幸いな事に隊列は殆ど完成しており、僕は後部という素晴らしいポジションを取ることが出来た。

14 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:15:16.74 ID:uZKb4BQP0
「今日も集まったな、諸君」

と、突然野太い声が聞こえてきた。
声の主はギコ教官だろう。黙祷の時は、彼が必ず指揮をする。
ちなみに、僕の脳内無能教師の一人でもある。何故こんな暴力的な奴がトリーシャに仕えている身だといえるのだ。

「それでは、トリーシャ様への祈りを捧げよう。今日も主に感謝したまえ」

ギコのこの言葉で、辺りは一気に静寂する。
鳥の声もしない、虫の声もしない、人の声もしない。
ただ唯一、風の匂いと音が辺りを駆け抜ける。
正直、僕がこの暇な時間にする事は眠るか妄想するかだ。
大方は後者で終わっているが、黙祷なんて目を瞑っているだけなので、運が良い時は寝ているだけで見つからない事もある。
今日は後ろの席を取れたんだし、眠っていよう。









15 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:16:51.45 ID:uZKb4BQP0
「ふわ〜ぁ…」

その後は、眠い目を擦りながら朝食を食べ終え、教官のくだらない授業を受けに行く。
本当にくだらない授業だ。神学をやっているくらいなら、何処かの科学者が編み出した数学論でもやっている方がマシと本気で思う。
トリーシャ様の伝承とかそんなこと、僕にはどうでもいいのだ。倫理学に興味などないのだ。
だのに無能教官ときたら、同じことを繰り返すばかりの授業。
トリーシャ様の伝承なんて、もう何回聞かされたことか……。
その他には、トリーシャ様の故郷がどうだったかとか恋人がどうだったかとか。
あとはそう、歴史学! これがまたつまらないったらありゃしない。
トリーシャ様の生誕から死後の流れまで暗記……そしてその後の教会の発足やら何やら。

ちなみに、今日の一限は歴史学。
僕の大嫌いな教科だと言おう。はっきり言ってとてつもなくだるい。


さて、そんなこんなで歴史学の講義室に入った僕にぶちかまされたのは、歴史の教員であるギコの怒声であった。
突然の事にたじろぐ僕に、ギコはどんどん引きつった顔で近づいてくる。

「ゴルァ! ブーン、てめぇは………!」

イキナリ、襟首を鷲づかみにされた。
何だっていうんだよ、一体!

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:17:36.85 ID:loXiuNbc0
各国でゴミ扱いされる奴
http://ex16.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1157875308/

1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします New! 2006/09/10(日) 17:01:48.42 ID:0vlMZtRx0
ブラジル:サッカーが下手な男
日本:VIPPER

このスレでVIPPERが馬鹿にされてるお。
みんなで愛のおしおきをするお( ^ω^;)

17 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:18:31.74 ID:uZKb4BQP0
「何ですかお!」
「何ですかお? じゃねえよバーロー!」

ギコは僕をそのまま、地面に放り投げた。
顔面から地面に落下し、頬を思い切り地面にぶつけた。
畜生! 痛い! 何しやがるんだこの無能教師ッ!!

「お前、何で今怒られているのか理解できねえのか?」

ギコは僕を見下しながら言う。
図に乗るなよ、この無能教師が……!

「僕が何かしましたかお…!? 何でいきなり暴力を!」
「バッカヤロウ!! お前には特別講義をしてやるから講義開始の三十分前には来いと言ったろうが!!」

そこで僕は思わず、あ、と声を漏らさずに入られなかった。
その様子を見て、ギコが僕の頭をポカリと殴る。

そうだ、僕はあまりの成績の悪さに特別講義をされる予定だったのだ。
すっかり忘れていた。今回は僕のほうが悪いのは認めよう。
だが、体罰とはいかがなものだろうか!? 宗教家ってのは暴力はダメなんじゃないのか!?

「何だ、ブーン。その目は…」
「暴力を振るっていると、トリーシャ様から見捨てられますお」
「―――――ッ!!」

ギコはそこで、堪忍袋の緒が切れたようだ。
顔を真っ赤にし、手近な杖を持って僕に殴りかかってきた。

18 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:19:42.32 ID:uZKb4BQP0
「やべえお」

そこで僕は、ギコを怒らせたことを後悔した。
こいつは、キレると何をするかわからないことで有名なのだ。
以前は反感的な生徒をボコボコにして、謹慎をくらっていた事もあった。
そのギコが、今猛烈に怒っている。マズイ、マズイマズイ!
これは死を覚悟するべきかもしれない………って、考えてる暇はない!!
悠長にしている間に、ギコの杖が目前まで迫ってきた!


思わず覚悟して目を閉じたが、その杖が僕にあたることはなかった。
おそるおそる目を開けると、誰かがその腕を掴んで止めたらしい。
一体、誰が―――。

「暴力とはいただけませんよ、ギコ先生」
「――――ッ!?」

ああ、こいつか。クラスメートのショボだ。
超優等生で、何故修士のままでいるのか謎な奴。
ショボは、暴力が嫌いだった。修道院にもたまに暴力的な生徒がいるのだが、仲裁に入るのは決まってショボだった。

「退け! 俺はこいつを―――ッ!」
「大人気ないなあ」

護身術か何かだろう。
ショボは掴んだギコの右腕を自分の手ごとくるりと回し、次の瞬間にギコは体をひっくり返していた。
ギコは何が起こったのか分からず呆然としていたが、暫くすると羞恥の感情が出、歯を食いしばっていた。

19 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:20:55.44 ID:uZKb4BQP0
「糞がッ!! もういい! お前ら後で覚悟しろよ!! 今日の授業はこれで終わりにする!! あーくそ、レンジ聞いて心を癒すぜ!」

ギコは怒声をかまして、講義をすっぽかして何処かへ行ってしまった。
教室に残された生徒達は唖然とするばかりだったが、暫くするとひそひそと会話が聞こえてきた。

「ちょ………あいつレンジファンかよ」
「マジキモイんだけど」
「レンジってあのレモンジレンジでしょ? まだあのグループ好きな人いたんだ」
「レンジファン(´・ω・`)ぶち殺すぞ」
「あのパクリグループきもいおwwww」
「アンチのこと人種とか言ってんのかね。きんもーっ☆」
「レモンジレンジ(´・ω・`)知らんがな」


結局、その後ギコが戻ってくることはなかった。
部屋でレモンジレンジの歌でも歌っているのだろう……きめぇ。

20 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:22:12.76 ID:uZKb4BQP0
そのまま一限は無事に終了したのだが、その後すぐにやってきた教官が僕とショボを神官室へ呼び出した。

神官室というのは、この修道院の長がいる部屋だ。
少し前まではミルナ様が長であったのだが、彼の死後からはオルミアという女性神官が長になっている。
一説では、オルミア様が長の座を狙ってミルナ様を暗殺………なんてのもあるが、正直そうは思えない。
何故ならば、オルミア様はとても温和で、心優しい方なのだ。
無能教官のギコなんかとは段違いだ。世の中の人間全てがオルミア様の様だったら良いのにとさえ思う。

「内藤君、ショボ君」

オルミア様が、冷笑しながら僕らを見つめる。
何だか知らないが、僕もショボも背筋にゾクッとしたものを感じた。

「ここに呼ばれた理由は分かるね?」
「ええと………その」

僕はとぼけたが、優等生のショボはそうしなかった。
僕の一歩前に出、オルミア様と対峙する。

「もしかしてギコ先生のことですか? あれは、彼がブーンに暴力を振るおうとしたからですよ」

オルミア様は一瞬眉をひそめると、僕らの方ではなく、後ろ向きになって窓の方を見た。
何だ、温和ないつもの先生とは違うふいんき(何故か変換できない)が漂ってる……。

「ギコ先生も確かに悪いです。彼には、厳しい処罰を与えましょう。しかし」

オルミア様が振り返り、僕ら………と言うよりは、僕だけをじっと見詰めてきた。
それも、厳しい眼差しで。一瞬、身の毛がよだったほどだ。

21 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:23:31.10 ID:uZKb4BQP0
「内藤君の成績が悪いのもまた事実。そして、ギコ先生の講義をすっぽかしたのも事実」
「はぁ………それについてはすいませんでしたお」
「よって、君には処罰を与える事にします」
「はぁ、そうですかお………………って……え? 処罰?」

処罰、という言葉に縁がないのは当然だ。
それは、相当DQNな生徒に下される処分の事だろう。
そんな、たかが講義をすっぽかして、挙句の果てには無能教師を勝手に怒らせただけで処罰!?
何だよ、それ! 退学とか言われたら僕はどうすればいいんだ!?
中退金は払えない。なら、せめてでも謹慎処分………されたら、行き場もない……。
ああ、僕はどうなるんだよ。葛藤が……あぁ。


と、困惑している僕の眼中に突然飛び込んできたのは、洋紙であった。
インク臭い。何か書いてあるのだろうか。
よくよく見ると、まだ艶の残る黒インクでこう書かれている。


『お守りの在庫がきれてしまいました。
 なので、下山してリスボンの町からお守りをもらってきてください。
 既に発注はしてあるので、道具屋に行って、この書類を見せれば貰える筈です。
 あ、道具屋さん、お金は口座に振り込んでおきましたのでお願いします^^;
                                                オルミア』

22 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:24:43.44 ID:uZKb4BQP0
「……なんですかお、これ」
「お守りは教会の収入源です。ですが、在庫が切れてしまったため、今少し苦しいのです」
「それで、あなたはもしかして…」
「ええ、君にはこの書類を持ってリスボンへ行ってもらいます」

最初に心に浮かんだ感情は、不満ではなく満悦だった。
一瞬でもこの薄汚い修道院からおさらばできるのが嬉しかった。

だが、次の瞬間に困惑する。
僕は、下山した事はない。例え地図をもらっても、それを読んでうまく町までいける自信はない。
コンパスとか、使い方さえ知らないし、この辺りは磁力が働いているはずなので、針がまともに作動しないだろう。
と言うか、それよりも前に盗賊や野獣とかに殺されてしまう可能性だってあるんだ。
町から町に移るには、帝国騎士団やら何やらから護衛を付けるのが常識の世の中。
以前聞いた話では、リスボンなる町までは下山後に山一つ越えねばならないらしい。
まさか僕一人で行けと言うのではないだろうな、オルミア様。

「不安そうな顔ですね」

オルミア様、僕の思考を完全に理解しているのだろう。
この人お得意の冷笑が、また僕の心を貫いた。

「僕一人で行けと言うんですか?」
「いいえ。その為にショボ君も呼んだんです」
「はい?(´・ω・`)」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:25:46.55 ID:VdiJJgDUO
BARギコっぽいONLINE
http://l4cs.jpn.org/gikopoi/index.html


http://namamono.tk/06/src/1157871939468.jpg
http://namamono.tk/06/src/1157871959335.jpg
http://namamono.tk/06/src/1157872040796.jpg






.

24 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:26:10.05 ID:uZKb4BQP0
ショボと僕の声が同時に重なる。
当然だ。ショボにとっては、全く想定外の出来事だろう。
まさかこの神官、ショボを僕のお使いに付き合わせるつもりじゃないだろうな…。
いや、それが的中だろうな。オルミア様ときたら、ショボの事を横目で見て笑っていやがる。

「ショボ君、ギコ先生を怒らせてしまったのは君です」
「で、でも! それはあの先生が悪い事で…!!」
「言い訳無用。それに内藤君だけでは不安なので、君にも行ってもらいます」
「ちょ………(´・ω・`)知らんがな」
「私も知らんがな」


結局、ショボがその後オルミア様に言いくるめられてしまった事は言うまでもない。
優等生のショボは、神に祈る時間が等とぼやいていた。信じられん。
こいつもクーと同様、厚い信仰で修道院に来たのだろう。
全く、この山を下山したらそこはどんな世界なんだろう。
人口の半分近くがトリーシャ教と聞くし………恐ろしいよね。

その後のショボの機嫌は、妙に悪かった。
話しかけても、ぶち殺すぞという単語だけを連発された。
本当にショボはこの修道院から出たくなかったらしい……乙なことだ。

25 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:28:17.91 ID:uZKb4BQP0
さて、当の僕はというと、明日から下山するための支度をしていた。
食料、水、野宿セット等、生活に最低限必要なものは勿論。
暇な時読書するための本や、携帯ゲーム機や。
後は野獣なんかに遭遇した時の為にと、オルミア様がくれた高レベル術師用の杖。
修士二級以上に与えられる杖であり、五級の僕なんかが持っていていいのかと思うほどだ。
この分では、ショボなんかは修士一級の杖でも頂いたのではないか?
それで明日の朝には機嫌を直してくれていればいいんだがね。


「ふわぁ。」

欠伸が出た。
今日は疲れたので、眠気がさしてきたようだ。
明日の朝から、あの退屈なお祈りもなくていいのか。
そういう意味では下山が嬉しい。というか、嬉しくない事なんて一つもないんだけど。
明日の朝は早いので、さっさと眠る事にしよう。

僕はベッドにもぐりこみ、布団を自分に覆いかぶせた。










26 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:29:51.56 ID:uZKb4BQP0
明朝、朝日は相変わらず差し込まない。
やはり乳色の霧がかすみ、辺りの景色はハッキリしない。
気温は昨日よりも寒くて、毛が逆立ちっぱなしだ。おかげで、法衣を二枚も羽織る羽目になった。
視界がはっきりしないといっても、それは最初だけの事で、ショボがしぶしぶながら光の法術で辺りを照らしてくれた。
その右手には、やはり修士一級の杖が。
ショボも、ちょっとご機嫌な様子であった。
僕はそれを見て、ホッとしたものだ。


「ショボ、リスボンまでの道は把握しているのかお?」
「まあね。こう見えても僕、リスボンの出身だし。地図がなくてもいけるよ」
「へぇ。ショボって、リスボンからここを受けに来たのかお。近くに修道院ないのかお?」
「リスボンの最寄修道院ってここなんだよ。意外とあの辺、トリーシャ教に過疎いんだよね」
「そうなのかお? トリーシャ教って世界の人口の二分の一とか聞いたけど」
「誰から聞いたんだよ。トリーシャ教は、精々でも人口の四分の一くらいだと思うよ」

怪訝そうな顔をする僕に、ショボが真実をさらりと。
そういえばこの噂、誰から聞いたんだっけ? 何でも鵜呑みにしてはいけないな。

27 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:31:26.16 ID:uZKb4BQP0
「まあ、いいお。それより、リスボンまではどのくらいなんだお?」
「山道は一本道だからね。もう少しで多分ふもとの町まで出ると思うよ。そこで休憩しよう」
「把握した。それまでに野獣とか盗賊とか出たりしないおね?」
「まあね。この辺りには獰猛な生物は住んでない筈だし、盗賊なんかも教会の周りは自警団が退治してくれてるしね。あれ見てみなよ」

ショボが指差した先には、鉛色にどんよりと光る鎧に身をまとった騎士がいた。
と言っても、帝国の騎士団とは違い、修行僧の中から教団の警護の為に騎士となった者だ。
それを自警団と称する。彼らは、朝早くからこの辺りの治安を維持してくれているのだろう。
自警団の人は、僕らに気付くと手を振ってくれた。僕とショボも手を振り返す。
僕らを一目見て不審者でないと理解するとは、視力はとても良いらしい。
これで腕っ節が強ければ、トリーシャ教は本当に安心だな。

「まあ、心配せずにのほほんと行こうよ」
「そうだねだお」

僕とショボは、ゆるゆると山道を下っていった。

28 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:33:16.01 ID:uZKb4BQP0
やがて、絢爛な風景になる。
背低な木やら巨木が立ち並ぶようになって、辺りは一気に気温を上昇させた。
その初めての暑さに、僕はたじろいでいた。
それは正に、シベリアで寒さしか知らない人間が砂漠の暑い空間に放り込まれたような。
長い間低気温の中で育ってきた僕は、そう言う訳で暑さが苦手なようだった。
ショボに比べて、その数倍の量の脂汗を流し、息を荒くしているように思える。
ショボはというと、蔑むような目で僕を見て何も言わない。悔しい。

「暑いお」
「知らんがな」

会話も、二言返事だけで終わる。
ショボの奴、暑くて少し気が立っているようだった。
山の上にいて気付かなかったが、今の季節は夏だったのだ。
それも、猛暑な日々が続いているらしい。
夏鳥や夏虫の声は、最初こそ心地よいものであったが、いい加減に鬱陶しくなってきた。
プンプンと耳の周りを飛び回るのは、吸血する虫。
羽音が嫌に耳に響く。煩い。叩き殺してやりたい。

耐え切れず、その虫をぺちんと潰す。
そうすると、手の中には汗に塗れた虫の死骸と、その虫のありとあらゆる体液が。
嫌な羽音はその一匹を殺しただけでは終わらないし、手は汚れるし。
下の世界は良い事ないな。山の上って、案外快適だったのかもしれない。

29 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:34:22.62 ID:uZKb4BQP0
「ショボ……町までは後どれくらいだお」

この言葉、何回言っただろう。
でも、言わずにはいられないこの気持ちを分かって欲しい。
ショボはもう、いい加減にしろという眼差しをこちらに向けて、何も言わずに指を指した。
その方向に、僕は見た。何か大きな建物があるのを。

屋根の部分くらいしか見えない。
美しい紫の色をしているようだ。何の建物だろう。
っと、建物? 建物があるという事は、あそこが例の町なのか。
距離的には、今まで来た道に比べれば大した事はない。
歩いてでも、十分以上はかからないだろう。
やっと目前に見えた休息に、僕は胸を弾ませた。

「ショボ、急いで街行って休むお!」
「うるさいな、お前一人で行けよ」

走る気力もなくしているショボをおいて、僕は一人山道を駆け出した。
地を蹴る足は強く、一歩一歩しっかり前に踏み出して。




―――思えば、ここから、僕の小さな冒険が始まったのだ。


第一話 完

30 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:35:35.46 ID:uZKb4BQP0
第二話「因果の始動」



ふもとの村、というだけあって小さかった。
遠くから見えた紫色の屋根は、その街の教会のものであった。
街に着くとすぐ、ショボはお祈りしていくと小さく言ってそそくさに僕の前から消えてしまった。
僕のことが嫌いだったんだろうか。悲しい。

まあ、それは置いておいてだ。
僕は自由時間を頂いたわけだ。ショボが戻ってくるまでだけど。
何処へ行こうか、と思案する。
街なんて初めてだし、色々行ってみたい所がある。
様々な露店が並ぶ商店街だとか、街民が集まる広場だとか。
始めてみるその街の光景。新鮮だった。


とりあえず僕は、街の広場に行く事にした。

31 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:36:44.34 ID:uZKb4BQP0
そこには、随分と目立った噴水があった。
大きな噴水で、その中心部には恐らくトリーシャであろう像があった。
凄まじい。トリーシャ教の力は、本当に世に広まっているんだなと実感だ。
そのトリーシャ像が水瓶を持ち、そこから止め処なく水が溢れる。
よく水が絶えなく流れ続け、噴水から溢れないもんだと感心しながら、僕はその辺りのベンチに座った。

ベンチは日の光を吸って暖かかった。
ちなみに猛暑といったが、先程は森の中にいたので余計に暑く感じたらしい。
今は街の中、そして噴水の側という事もあって大分涼しい。
涼しさがこんなに気持ちのいいことだとは。街に下りてきて始めて気付けた発見だ。


「アッハ〜ンなんかいい感じ〜」

そんな心地いい気分を壊す野太い声。
何処かで聞いたことのあるメロディが、突然空間に響き渡った。
ギコのものではない。が、それと同等な臭いがする。

「クモンベイベ〜」

……何だ、街ではレモンジレンジは更に人気らしいぞ。
いったい誰かが歌っているのかと思って周りを見れば、街の至る所に設置されたスピーカーが設置されている。
そこから聞こえてくるとは………つまりこれは、街のBGMという事なのか?
それにこれ、レモンジレンジの歌っている原曲だ。
なんだ、随分へたくそなんだな。一度ギコが歌っているのを聞いたことがあるが、少なくともあれよりはうまいがな、うん。
そもそも、教会社会でこんなちゃらちゃらした連中がいるのがおかしいものだ。
と、思ったがすぐにその考えを否定した。
人口の半分がトリーシャ教というのは、虚言でしかなかったのか。
ならば、レモンジレンジのファンがトリーシャ教の信者に勝っていてもなんらおかしくは無いか。
個人的には嫌だけど…。

32 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:38:07.96 ID:uZKb4BQP0
そんなどうでもいい事に時間を費やしていると、後ろから誰かが肩を掴んできた。

「やあ」

振り返ると、ショボだった。お祈りは終わったらしい。
腕には何だか見慣れぬブレスレットまでしている。どうしたんだろう。

「お祈りは終わったんかお」
「ああ。トリーシャ様に旅の安全を祈ったよ。それより、このブレスレット見てくれよ」

ショボはそう言うと、左右の腕にはめた金のブレスレットを見せびらかしてきた。
微細な装飾が施されていて、しかも金製。決して安価ではないだろう。
しかし、これがどうしたんだ? まさか、旅費で買ったんじゃないだろうな…。

「何でも、トリーシャ教の総本山であるトリーシアの聖水で清められたブレスレットらしいよ!」
「は?」
「魔除けに、安全のお守りにもなるんだって。ブーンも一個持てよ」

ショボは、左の方の腕に嵌めていたブレスレットを外して僕によこした。
受け取ってみて始めて気付いたのだが、その金は鍍金だ。
少しばかり、下地の銀が見えている。
これはショボ、騙されてるぞ、絶対に。

「いくらしたんだお?」
「え? 三千だけど」
「は? 旅費は一万しか貰ってないんだお? 何考えてんだお」
「知らんがな。命は金に変えられないだろ?」
「命? 馬鹿じゃないの、お前騙されてるお」
「何言ってんの? 僕が騙されるわけ無いじゃん。ぶち殺すぞ」

33 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:39:23.95 ID:uZKb4BQP0
ショボはどうやら、騙されやすいようだ。
こんなんで一人前の修道士になれるんだろうか、こいつは。

「そのお守りはショボの自腹だお」
「は?? 何その態度?? 僕はブーンを気遣ってやってんだよ??」

は? 何コイツ?(;^ω^)

「それはお節介だお。第一、旅費をこんなのに費やしてどうすんだお。そのお金はあくまで宿代とかなんだお?」
「は? は? は? うるさいんだけど。なんなんだよ、折角買ったのに………グスッ」

泣き出すショボ。
泣かせるつもりは無かった。しかし、僕も少々言いすぎたか…?


「今回だけは許してやるお。でも、もう二度と必要ないもん買うんじゃないお」
「ブーンのくせに………修士五級がほざいてんじゃねえぇえぇぇぇ!!」

折角慰めをかけてやったのに、ショボはそのまま何処かへ駆けて行ってしまった。
追いかけようとしたのだが、いかんせんショボは足が速い。
というか、即座に術を使って脚力を上昇させ、僕が追いつけないようにしている。
後で適当に探してあげるとしよう、まったく。
もしかしたら、すぐに探して欲しかったのかもしれないけど(´・ω・`)知らんがな。






34 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:40:43.49 ID:uZKb4BQP0
さて、そんなことよりもだ。
ショボの用事が済んだなら、帝国騎士団の詰所に行かなければならない。
リスボンまでは山一つあるらしいし、途中で必ず獣なんかが現れるだろう。
ショボの術で大方は撃退できるだろうが、正直お荷物の僕を庇いながらだと一人ではきついだろう。
そこで、護衛を一名つけることにしたのだ。
と言っても、街から街へ一般人が移動する際には護衛を付けるのが義務なのだけど。
ちなみに、無料。 お給料は国から貰っているそうです。
随分と安心な世の中になりましたね。


そんな訳で、街の人々に道を聞きながら詰所にたどり着いた。
意外とこぢんまりとしている宿舎のような場所だった。
気のせいか、熱気が立ち込めてるような。
蒸れたような臭いがするのは、本当に気のせいだろうな。
ちょっと不安になりながら、詰め所の扉を引く。

と、まあ、中に入ったまでは涼しかった。
冷房が完備されているようだし。
唯一つ、少しばかり奥の方を見たとき、僕はげんなりしてしまったのは言うまでも無い。

その奥の部屋には、冷房がないようだ。
そんな部屋に、男が十人ほど。全員、筋肉トレーニングをしている。
それで更に最悪なのが、その臭いがこちらまで漂ってくる事だ。
汗臭い。とにかく汗臭い。涼しいが臭い。
せめてドアを閉めてやってくれ。うおぇ。

35 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:42:10.31 ID:uZKb4BQP0
「あら、お客様ですか?」

そんな気分の悪い僕に、リクルートスーツを着た女性が話しかけてきた。
大方、詰所の役員さんか何かだろう。
何というか、この人は体に男たちの汗の臭いがしみこんでいやがる! 体臭くせぇ。

「お客様ですお。そのお客様からお願いがありますお」
「はい?」

聞こうとしていることが本当に分かっていないのか、この人は。

「臭いですお。あのトレーニングルームのドアを閉めてくださいお」
「え? 臭い?」
「臭いんですお」

女の人が、不思議そうな表情をしている。
臭い以外にどんな例え方があるのだろう。

「いい香りです」
「は?」
「男の汗の臭い……いい香りです。何故な貴方には分からないんですか?」
「は? 臭いですお?」
「は、臭い? 何なの、あなた。イキナリ入ってきて私の気持ち良いひと時を邪魔しないでくれない?」

な、何なんだこいつ!
そう思うと同時に、プツッ、と僕の頭で何かが切れる音がした。

「ふざけんなお。僕はお客だお! お前より立場は上だお!」
「何威張ってんのよ、白豚。ブヒブヒ言ってて気持ち悪いわ」
「――――――ッッ!!!」

36 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:43:06.00 ID:uZKb4BQP0
そこで僕は、ギコになった。
いや、正確に言えば、杖でこいつを殴ろうと思ったのだ。
どんなに口が回っても、所詮は女。僕の攻撃を防ぎきれるはずは無い。
僕は無慈悲に女の顔面目掛けて杖を振り下ろしたのだが、それが途中で物凄い力によって止まってしまったのは何故?


見れば、ショボが僕の杖を掴んで止めていた。
つ、都合よく現れやがって!

「ショ、ショボ! 放せお!」
「女性に手を出すとは大人気ない。ギコと同じ臭いがするぞ」
「ちくしょぉぉぉおー!!!」

……あれ? そんなこんなしている間に、僕は数人の男に囲まれているのに気付く。
先程まで鍛錬していた男たちや、軽い鎧をまとった騎士たちや……。

え、僕どうなるんだろう?
ついカッとなったが、これってやっぱり僕も悪い?


「申し訳ございませんでした!」

と、次の瞬間、男の一人が土下座した。
何故土下座されているのかが全く持ってわからない。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:43:37.03 ID:aeNMSLa6O
カシオスまだぁチンチン

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:44:35.61 ID:nj6d0bt20
なんでさるさんならんの

39 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:44:36.11 ID:uZKb4BQP0
「どうかしましたかお?」
「ここではなんですので、こちらへどうぞ…」

今度は別の男が僕とショボの背中に手をやったかと思うと、そのまま持ち上げられた。
僕らは、担がれているようだ。

「自分で歩きますお!」
「滅相も無い」

僕らを担いでいる男たちだが、とにかく臭い!!
汗臭い! 汗を拭いていない! うぉぇ。
男たちは、上半身裸で。汗が直接僕の顔だとか手足にこびりつく。
気持ち悪い、気持ち悪い。
お願いだから降ろしてくれ、とショボも叫んでいたが、その悲痛な叫びは何処か広い部屋に入るまでおさまらなかった。







40 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:45:19.51 ID:uZKb4BQP0
「すいません。あの娘、異常な性癖の持ち主でして………解雇しました」
「はあ、それはどうもですお」

男の出してくれたお茶をすすりながら会話。
唇が湿って、滑舌が先程より良くなった気がする。
あの娘って、汗大好きなあの女か。

「そんなことより、僕たちは護衛を探しに来たんですけれど」
「はい。了解しております。おーい、ドクオ!」

煎餅を頬張るショボに言われ、責任者であろう男がドアのほうへ手招きをして声をかける。
そうすると、やけに陰気な雰囲気をした青年が出てきた。
が、その体はしっかりと鍛えられたものだ。
腰に挿すその剣も、帝国騎士の上級兵が使うものと教科書で見たことがある。
つまり彼は、この詰所のエリートに当たるのだろう。

「お呼びですか」
「うむ。今回、こちらの方々の護衛についてもらう」

ドクオという名の騎士は、詰所の責任者に紹介され、僕らの目の前に出た。
こうして見ると、背が高い事が分かる。とても強そうだ。
ドクオは僕らの目を見た後、ひざまずき、頭を垂れて、

「初めまして。私はドクオと申します。不束者ですが、どうぞよろしく」

その律儀な態度に一瞬返答を困ったが、そこは真面目なショボがカバーしてくれる。

41 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:46:34.82 ID:uZKb4BQP0
僕はショボ。リスボンの街を目指しています。こいつはブーンと言います。どうぞ、よろしく」
「こちらこそ。宜しく、ブーンにショボ」

ドクオとショボが、僕を置き去りにして会話を進めていた。
世知辛い世間の常識はよく分からない。
僕は責任者の出したお茶をゆっくりとすすりながら、二人の会話を聞き流すしかなかった。
のだが。

「おいブーン、お前も少しは挨拶しろよ」

とショボに促され、しぶしぶドクオの方を向く。
その眼光は凍てつくほどに鋭く、これが騎士なのかと思わせるほどであった。

「僕はブーンですお。リスボンまでよろしくお願いしますお」
「ああ、宜しく」

ドクオと握手した。
手が少し汗ばんでいたような気がする。トレーニングでもしてたのだろうか。
そういえばこの男、汗臭いな。

「さて、出発はいつごろですか? 私はいつでも構いませんが」
「ちょっとお待ちを」

ショボが僕のほうに向き直る。

「ブーン、今から行きたいか? それとも明日行きたいか?」
「え? 別に今からでいいお。どうせ野宿するんだろうし」
「そうか。まあ僕は明日の朝からでもいいと思ったけどね。僕のあげたブレスレットしっかり付けろよ」
「は? あ、ああ………」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:47:34.54 ID:aeNMSLa6O
君は小宇宙を感じた事があるか?

43 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:47:53.17 ID:uZKb4BQP0
まだ根に持っていたのか、と言おうとした瞬間には、ショボは既にドクオと会話していた。
ドクオは今から出発すると聞くなり、もう一振りの剣を腰に挿し、マントを羽織って、街の外で待っていますとだけ残して去っていった。
まったく、騎士と言う奴は何かと律儀な奴だなあ、と関心と同時に呆れた。

「ほらブーンも支度して。ドクオさんを待たせちゃ悪いよ」
「はいはいおkだお」

僕はショボに言われて、その場を後にした。










44 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:49:32.21 ID:uZKb4BQP0
さて、支度と言っても僕は夢の詰まったリュックを持ち出すだけで。
ショボはというと、買出しに行ってくると言って街に出て、数分したら戻ってきた。
その手には、沢山のわけの分からぬ品物が。
ロザリオだったり、リングだったり、またブレスレットだったり。
ショボの自腹だからいいけど、また紛い物でも買ってきたのか……。


その後、街の入り口でドクオ氏と合流した。

「おいすー」
「準備は出来ましたか。それでは行きましょうか」
「敬語なんて使わなくていいよ。息が詰まっちゃうでしょ」
「いえいえ。私よりクライアント様のほうが偉いのですから」
「そんなことねーおwww 僕ら守られてるだけだし^^」
「そうか。じゃあ敬語面倒だからタメ口になる」
「ちょwww豹変しすぎwwwww」
「知らんがな(´・ω・`)」
「敬語マンドクセ('A`)」
「ねーよwwwww」
「あるあるwwwww」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:49:43.17 ID:ljMghevr0
今北豆男!!!?!

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:50:23.78 ID:OYt4euUD0
ちょwwwまwwwww


待っていた。

47 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:50:50.84 ID:uZKb4BQP0
リスボンまでは、先程も言ったが山一つ越えねばならない。
そこがどうも、登山するわけではなく廃坑のトンネルを進んでいくらしい。
長い間放置されていたので、吸血蝙蝠や山賊がいるかもしれない、とのことだ。
ドクオとショボがいるから多少は安心だが、それでも完全にとは行かない。
二人が十数人に勝つのは、ハッキリ言って不可能に等しい。
マンガやアニメでは一騎当千をよく見かけるが、あれは常人の持ちえる力で無い。
元は僕もドクオもショボも普通の人間なのだ。限界はある。
もう一人護衛を付けたほうが良いんじゃないのかと心配もされたが、ショボが何故か断った。

さてさて、その例の廃坑だが、ふもとの村から大して距離は無いのだ。
数十分ほど何事もなく歩き続けたら、山はもう見えた。
周りの山よりも大きくて、天嶮ほどとはいかないが圧倒された。
確かにこれは、山を登っていたら半月はかかりそうである。

「さて、では洞窟に入るが、俺を先頭にしろよ」
「しんがりは僕がやるよ。ブーンは真ん中ね」
「ちょwwww何故wwww僕先頭がいいおwww」
「バーカ。弱い奴を先頭に出来るかよ。それにお前、道知らんだろうが」
「(;^ω^)」

そして僕らは、廃坑の内部へと向う。

48 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:51:41.52 ID:uZKb4BQP0
とても薄暗かった。
天井にはランプが吊るしてあったけど、どれも機能していない。
仕方なく、ショボが一々火炎の術でランプに火を灯して行った。
それでもまだ薄暗い。足元が怖い。
それに、外とは違ってえらく寒い。
おそらく、日の光など全く当たらないのだろう。
虫も何もいないし、コウモリもいないし。
これは別に護衛を付けなくてもいけたかも分からんね。

「何もいないね」

と、ショボも言う。
流石にここまで何も無いと、気が抜けてしまう。

「用心する事にこした事はない。準備を怠っているとそうでないとでは、何かあったときの対応が随分違うしな」
「ドクオは小難しいこと言うお」
「ブーンがバカなだけだろ。ドクオは今いい事言った」

やけにドクオを庇うショボ。
モーホーの気でもあるのかと思ってしまうぞ。

「はいはいワロスワロス」
「おいブーン、あまり私を怒らせないほうがいい」
「短気はきんもーっ☆ だお」
「死ね。氏ねじゃなくて死ね」

49 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:52:17.36 ID:uZKb4BQP0
ドクオと僕の声は、洞窟内に響いていた。
声が反響して、木霊が返ってくる。
何だか面白いな。

「そんなことよりヤッホーやがな(´・ω・`)」

僕より先にそれに気付いていたショボが、洞窟内で大声を。
ヤッホーやがな、と言う言葉は壁に当たり壁に当たり、耳に何重にもなって聞こえた。
やっぱり面白いな。

「俺いい事思いついた」

と、突然ドクオが。

「ん? 何?」
「ここで歌うたったら、響いてうまく聞こえるんじゃね?」
「んなこと(´・ω・`)知らんがな」

次の瞬間、ドクオは大きく息を吸い込んだ。
何か歌う気だ。まさかレモンジレンジでは…………。

「花びらの〜様に塵ゆく中で〜」
「ぐおおおおお!!」

50 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:53:27.63 ID:uZKb4BQP0
ドクオの調子はずれな声が、洞窟内に響き渡る……ッ。
皆様は、ジャイ○ンのリサイタルをご存知だろうか。
特殊な音波がみんなの耳を劈く……。
まさに、現実世界にジャイ○ンのリサイタルがあったらこんな感じだろう。酷い。
音が何重にも重なって耳が痛い。特殊音波を発するな。
お前はギコと気が合いそうだな。

なんて悠長な事を言っている間に、ショボが耳の辺りから血を吹き出して倒れた。
本気でこれはやばいぞ!

「おいドクオやめるお! ショボが死ぬお!」
「あ?」

そこでドクオの声が止んだ時、僕の耳には何かが空を切るような音が聞こえた。
それに咄嗟に反応したドクオが腰から剣を抜き、此方に飛んできたそれを叩き落す。
そして、叩き落したそれを見据え、

「なんだこれ、針?」
「針……? まさか………」

飛んできたのが針?
ショボは耳から血を吹き出して倒れたが、まさか怪音波でそうなったとは思えない。
ならば、ショボが倒れたのはまさか。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:53:53.96 ID:OYt4euUD0
しえん

52 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:54:34.94 ID:uZKb4BQP0
慌ててショボに駆け寄り、耳の辺りを見て見ると。
裁縫なんかに使うものよりは少し大きめの針………先端には毒か何かが塗ってある。
が、刺さって、そこから血をだらだらと流していた。
これは非常にまずい。


「おい、ブーン」

と、ドクオの緊張した声が聞こえた。
まさか、何かあったのか?

「なんだお?」
「お前はショボを介抱してろ。俺はコイツを片付けなきゃならねえ」

ドクオの視線の先には、三人の男がいた。
いずれも体格は良く、筋骨隆々。
そしてその手の中には、男たちに不釣り合いではない巨大な斧。
紛れもない。山賊だ。

「よぉ、ここは俺たちの縄張りだ」

山賊のうち一人が、野太い声で喋る。
それに反応し、ドクオは剣を構える。僕は、ショボに解毒の術をかける。
僕は術に関してはダメダメだが、幸いにも修士二級の杖がその威力を数倍に高めてくれるだろう。

「何が縄張りだ。屑どもが」
「あ? レンジファンがグダグダうるせえんだよ」
「何だと? レンジなめんじゃねーぞ」
「ブハハハ! こいつマジでレンジファンだぜ! きんもーっwwww☆」

53 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:55:06.51 ID:uZKb4BQP0
笑う男。
怒るドクオ。

次の瞬間、ドクオの姿はその場から消える。
次にドクオが現れたのが見えたとき、山賊の一人がその場に前から倒れこんだ。
勿論、汚い鮮血を撒き散らして。
ドクオの剣が、速すぎる速度で山賊の首の脈だけを切り裂いたのだ。
その技巧な腕前、他の山賊に戦慄がはしる。


「やってくれるじゃんかよ。よくもインポッポを………」
「インポッポ? この薄汚い面の野郎か。安心しろよ、お前も後を追わせてやるから」
「へっ。来いよ、雑魚」




――――戦いの火蓋が、切って落とされた。



第二話 完

54 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:55:55.35 ID:uZKb4BQP0
ここまでが前回投下分。
以降、纏められていない分です。

コメントをくれるみんな有難う。

55 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:57:21.26 ID:uZKb4BQP0
第三話「戦乱の世界」


「さぁて………」

一対ニ、というのは一見厳しそうでそうでない時もある。
例えば、テニスのシングルス対ダブルスなんて滅茶苦茶なプレイがあったとして。
ダブルスのほうの二組の息があっていなければ、シングルスのほうが一人で動ける分勝利を掴みやすい。
ただ、逆にその二人のコンビネーションがいい場合は、シングルスのほうが苦戦する。
要するに、少人数での戦闘はどれだけ相手、もしくは仲間を考えて動けるかによるのだ。
そういう歩合で考えると、ドクオは三人の内の一人を先に仕留められたのを幸運に思っていた。

「おら、どうしたぁ!」
「チンポッポ! バインッ!」

ドクオは防戦一方だった。
一人がドクオに限界まで近づいての攻撃。
全体重をその斧に乗せ、ドクオはそれを簡単に受け流すが、そこに一瞬のラグが生じる。
そのラグを利用して、今度はもう一人が死角から素早く一撃。
一流の騎士であるドクオはそれを風の音、感覚だけで防いでいるが、それもまぐれと言った方が良いかもしれない。
このまま続けていれば、確実に力負けしている自分のほうが不利となる。
刀身の先に滑るようにして力を受け流せば腕への疲労は少ないが、それでも衝撃は来る。
実際の所、ドクオの利き腕の腱は限界にまで達していた。
そのせいか、盾を捨て、剣を両手で構えたではないか。
盾で死角攻撃を防いでいたドクオにとっては、危険な賭けである。

56 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:58:25.81 ID:uZKb4BQP0
「くそっ……」

ドクオの思惑には、既に結論が出ていた。
先ずは一人を倒し、ショボの回復を待つ。
ショボが回復すれば、自分の腕の疲労を完全に取り除く程の癒しの術がかけられるだろう。
だが、ショボを回復している術者は才能のないブーン。
それにもう一つ最悪なのが、相手もそれを理解していると言う事。
先程から何度もドクオではなくブーンやショボを目掛けて奴らは突進していた。
その度、ドクオが捨て身で防戦する。
このままでは、ドクオも身が持たない。

「おいブーン、てめえ術者ならきちんと術使えよ!」
「あと少し待っとくれ。って、僕が少しなら快癒をかけてやるお」

ブーンの快癒を先程から何回か貰っているが、対して効果はない。
言い換えれば、オナニーした後の一瞬の快感のような気分にしかならない。
特に乳酸が消えるわけでもなし、機敏になるわけでもなし。
そう考えている間にも、山賊はブーンたちを狙う。
早く、一人殺さねば。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 17:58:59.22 ID:OYt4euUD0
いいよいいよー

58 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 17:59:39.70 ID:uZKb4BQP0
「どうした、守るだけで精一杯か?」

山賊は、自分も疲れたのだろうか、戦斧の石突きを地面に置き、話しかけてきた。
ドクオはこの機をどう使おうか迷っていた。
この隙に生じて一人を確実に仕留めるか、休憩するか。
だがしかし、こういうときは大抵罠があるのだ。
ドクオが動けば、もう一人が確実な確立でそれよりも早く動くだろう。
ドクオもまた剣の体重を地面に置き、話し始めた。

「へっ、うるせーんだよ。二対一とは卑怯だぜ?」
「卑怯もあるか。お前が人の縄張りでレモンジレンジ熱唱してるからだ」
「うるせー………」

ドクオの憮然とした表情を見て笑う山賊。
ドクオは頭にきたのか、犬歯をむき出しにして酷い形相になった。

「殺す………っ!」
「お前に出来るか?」

次の瞬間には、ドクオは動き出していた。
それと同時にして、もう一人の山賊が背後からドクオの方へ斧を向ける。

だが、ドクオはかすかに微笑んだ。
この時を待っていたのだ。
片方が自分の方へ向う時を。
思い返せば、いつも自分は向ってくる側に反応していたのだ。
それをパターンにしていれば、相手もまたそのパターンが繰り返されるだろうと思う。
ドクオは、実は最初からこれを狙っていたのだ。
行動を確定化させることによって、相手へのある意味での奇襲をかける。
そしてその奇襲は、単純な頭の山賊には意図も簡単に通用した。

59 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:02:28.73 ID:uZKb4BQP0
「!!」

ドクオはその斧の刃を剣で受け流すでなく、靴の裏でそれを蹴り飛ばす。
山賊の斧の力とドクオの足の力が反発し、ドクオは力の方向へと勢いを付けて飛んでいく。
それに、もう一人は反応できなかった。
ドクオの寝かせた剣の刃は、確実に山賊の肋骨から入り、内臓を貫通した。
血潮が上がり、男は幾度か痙攣した後に倒れる。
確実に仕留めただろう。
ドクオはもう一人と間合いを置き、剣の血を自分のマントで拭った。

「お前……、インポッポだけでなくペニスッスまで………」
「お前らにはお似合いの死に方だな。さあて、後はお前だけだがどうする?」
「くっ………」

完全な形勢の逆転。
サシの勝負では、どう考えてもドクオの方が勝るだろう。

更に、ブーンの術が終了したのだろう。
ドクオの体に凄まじい快癒の術がかけられる。
ショボが回復したのだ。これで実質に三対一となる。
もはや山賊に勝ち目などないだろう。

「さっきはよくもやってくれたね」

ショボがドクオの一歩前に出る。

60 名前:小豆男◇X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:03:39.40 ID:uZKb4BQP0
「毒、結構効いたよ。でもブーンに治せるくらいなんだからあまり強くはないみたいだね」
「何だお、その言い方」
「ああ、後君が使ったのは修士一級の杖だよ。二級の杖はこの前売ってしまったんだ。術が効いたのは杖のおかげだね」
「は? お前何してんだお? 僕が修士一級の杖貰うお?」
「いいよ別に。僕には自分の杖があるしね」

ショボはそう言うと、懐に手をまさぐって小奇麗な杖を取り出して。
それを山賊に向けた。動けば術を浴びせるぞ、という意だろう。
山賊はそれを見て舌打ちすると、斧を地面に落とした。
降伏、を意味しているのであろうか。

「降伏してもお前の身柄は帝国に突き出す。大人しく罰を受けろよ」

ドクオの勇ましい声に、山賊は堪えきれないようにケタケタと笑った。
いい加減に狂ったのか、と思う僕たちを尻目に、山賊は笑い続ける。

「いつ俺が降伏するって言った? あ? 大山賊チンポッポなめてんじゃねえよ」
「チンポッポ? キモイ名前だお!!」

チンポッポはブーンの罵倒に反応し、

「そうかい。じゃあ、先ずはお前から殺す」

短く言うと、チンポッポが消えた。

61 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:04:20.75 ID:uZKb4BQP0
三人のうち、動揺しなかったものはいない。
次の瞬間にはドクオが動き、ブーンの手前で激しい金属音。
ドクオの剣が受け止めていたのは、チンポッポの腕であった。
普通ではない。黒光りしている。
酷使しすぎた陰部のような黒さ。それも、相当な硬度だ。
ドクオは力を込めてそれを押し返しているが、チンポッポのほうが力が勝っている。
例え受け流したとしても重量のある斧とは違い、自分の体の一部なのだ。
チンポッポはすぐに反応し、体勢を整えてブーンを殺しに行くだろう。

「それは無理な注文だよね」

ショボが黒光りする腕に火炎の呪文を浴びせる。
のだが、その火炎は腕に当たるなり消滅した。
跡形もなく。火の粉まで残さずに。

「なっ……」

ブーンとショボが後退したのを見、ドクオはいったんチンポッポとの間合いを開ける。
幸いな事にチンポッポは追撃せず、そのまま自分も間合いを取った。
ドクオは腕が痺れているのだろう、剣を持つ方の腕がだらりと下がってしまっている。

「へっへ。どうだ、これが俺の力さ。見くびってくれるなよ?」
「お前、何をしたんだ? その黒い腕は何なんだ? 山賊なら斧で戦えよ。腕いてえ」
「ふん。凡人にはわからねえよ。俺の非凡な才能がなせる業さ!」
「何いってんだか」

62 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:05:17.92 ID:uZKb4BQP0
落ち着いて考える。
黒い腕には物理的手段も術的手段も効果はない。
となると、どうするか? そんなことは決まっている。
もう、残された選択肢は一つしかない。

「逃げるお!!」

三人で頷きあい、一斉に来た道を駆け出す。

と、同時に目前に黒い腕が。

「ぬぁ!」

三人は一斉に散開する。
同時にけたたましい轟音がしたかと思うと、既にそこには地面はなく、大きな穴が出来ていた。
その力、一目瞭然。

「仕方ない! 止まれ!」

ドクオの掛け声にブーンとショボンが足を止め、チンポッポに向かい合う。
冷静な判断だ、ここで逃げていても死ぬだけ。
ならば、どうにかして勝つしかない。

「ショボ、サポートしてくれ! ブーンは隠れてろ!」

ショボとドクオがチンポッポに向う。
対してブーンは、適当な岩陰を探すとそこに腰をおろした。
疲れたのだろう。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:05:29.75 ID:pJw4dTai0
誤爆おめでたう
おまけにさる回避

64 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:05:56.60 ID:uZKb4BQP0

「懲りないな。チンポッポ! バインッバインッ!!」
「ぬぁ!」

チンポッポが腕を地に叩きつける。
と、同時に地面から衝撃波が流れ、ドクオたちの体を麻痺させる。
そして次の瞬間、チンポッポの腕が空を裂き、ドクオに向う。
ドクオはそれを懇親の力で動かした剣により受けるが、それでも剣を弾き飛ばされ力の方向に吹っ飛ぶ。
ドクオは背中から勢いよく壁に叩きつけられたが、すぐさまにショボが快癒をかける。
そして体勢を整えた二人は、またチンポッポと対峙した。

「ナイスコンビネーションだな。だけど、いつまで持つかな」
「お前を倒すまでさ……!」

ショボが陣を組み、目を閉じる。
途端、洞窟の岩床が砕け、そこから勢いよく水があふれ出る。
不純物を含んだ水は勢いよくチンポッポの体に降りかかるが、水撃程度で倒れる彼ではない。

「俺には何も効かないんだよ。こんな水なら尚更な!」

チンポッポが、水を被ったまま突進する。
それを見、ドクオとショボは互いに頷きあい、走り出す!

「ドクオ、行くよ!」
「アイアイサー」

チンポッポに向って突き進んだのはドクオであった。
黒光りする腕はその姿を捉えようとしたが、次の瞬間にはチンポッポの視界からドクオは消えている。

65 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:06:41.60 ID:uZKb4BQP0
そして、鈍い音と共に黒い鮮血が飛び散る。
見れば、ドクオはいつ拾い上げたのか、剣をチンポッポの肩の硬質化している部分とそうでない部分の間に突き刺したのだ。

それを見、ショボが杖で陣を描くと同時にドクオは剣を突き刺したままチンポッポと間をあける。
途端、陣から溢れんばかりの光が放出され、それは次第に電気を帯びたかと思うと、龍となりドクオの剣を目掛けて飛ぶ。
不純水で体を濡らしたチンポッポに、雷撃が金属を通して落ちたのだ。

「ぐあああああああああああああああ!!!」

絶叫と異臭。
チンポッポの黒光りする腕はそれを通さなかったが、その他の部位が電撃によって焦げたのだ。
きな臭さは次第に辺りを包み、体から薄い煙を噴出させているチンポッポは地面に倒れこんだ。
神経を焦がされたのだろう、四肢を必死に動かそうとしているがそれが叶わない様子であった。
次第にチンポッポはもがくのを止め、おとなしくなる。

「さあて、チンポッポさん。観念したまえよ」

ドクオがチンポッポに言い放つ。
チンポッポは少し上を見上げ、ドクオの目を見つめると何故か不適に笑った。
ドクオはそれが気に入らなかったのか、剣をチンポッポの額に突きつけてもう一度言った。

「観念しろ、お前の身は帝国に引き渡す」
「ククク………俺がこの程度で終わるとでも…?」

チンポッポが今度は大声で笑う。
虚勢を張り上げているのではない、チンポッポの外傷がどんどんと塞がれていく。
いや、違う。黒い腕が他の部位にまで侵食しているのだ。
チンポッポの全身が見るうちに黒に染まり、やがて頭部を残したチンポッポの体は全て漆黒となった。
洞窟と溶け込むような黒。そしてそれは、先程の腕と同じような怪力、硬度を意味していた。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:06:43.65 ID:eaRCbFPr0
作者復活おめ

がんば

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:06:46.89 ID:OYt4euUD0
wktk

68 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:08:04.10 ID:uZKb4BQP0
「……冗談だろ」

ドクオもショボも目を丸くしていた。
論理的に説明できない謎の男の体。動揺しないわけがない。


だから、二人ともチンポッポの次の攻撃に反応できなかった。


「あぶないお!!」

ブーンの声虚しく、ドクオとショボは復活したチンポッポの腕によって吹き飛ばされる。
力の方向に吹っ飛んだ二人はそのまま勢いよく壁に叩きつけられる。同時に、洞窟を揺らすほどの轟音。
砂煙が舞い、それが消えた頃に現れたのは四肢を痙攣させて動かないドクオとショボの姿であった。
先程の戦いの疲労から考えて、重症なのは明白。もしかすると、死んでいるかもしれない。
いや、それよりも最悪な状況なのは、残ったのがブーン一人ということだ。
落ちこぼれ術師が、一流の術士と一流の剣士で叶わなかった相手に勝つ? 不可能だ。

「チンポッポ! バインッバイン!!」
「あ………あ……」

向うチンポッポに、ブーンは反応できただろう。
だのに、ブーンは腰が抜けて動けなかった。チンポッポの腕は確実にブーンを捕らえるだろう。
そうなればブーンは死ぬ。それは任務の失敗であり……いや、それ以前に死ぬなんて……。
ブーンの中をさまざまな感情が渦巻く。一瞬の事が、永遠に感じられる。

だが、チンポッポは止まらない。
魔手は、ブーンの首元へ伸び…。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:08:36.64 ID:LGZf1P4LO
二ヶ月も何してんの

70 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:09:22.21 ID:uZKb4BQP0
その瞬間、何かが終わった。


何かが…? ブーンではなく、チンポッポの命が、だ。


「ぐぎあああぁあぁぁぁあああ!!!」
「な、な!?」

チンポッポは、ブーンの喉元を引きちぎろうと姿勢のまま静止していた。
いや、静止しているのではない。させられているのだ、何かに。
チンポッポ自身は必死になって手足を動かそうとしている。
なのに、何かがそれを許さない。何かが、チンポッポの動きを封じているのだ。
チンポッポが動こうとするたび、チンポッポは呻く。恐らく、体を動かそうとすると痛みがはしるのだろう。
次第にチンポッポが悶絶しだしたかと思うと、体中の黒が頭部までを侵食した。
チンポッポの体が全て黒になったかと思ったその瞬間、チンポッポはこの世のものとは思えない絶叫をした。

そして次の瞬間、チンポッポの体が粉々に砕け散った。
臓物や血潮は飛び散らない。黒い塊だけが粉々になり、四散した。

「一体何が………?」

突然の事に驚くブーン。
死への恐怖から開放され、どっと体を脂汗が流れる。
息が荒くなり苦しいが、ドクオとショボを助ける事が先決だ。
ブーンは呼吸を落ち着け、二人に快癒の術をかけはじめた。




71 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:10:37.89 ID:uZKb4BQP0
「失敗、か」

ブーンには届かない声が遠くでした。
物陰から男が一人、その様子を見ていたようだ。
闇に溶けそうな赤い虹彩と黒髪が目立つ男。
紫紺の色に輝くマントを翻して、その男はもう一人の女を見る。

「力を受け入れられなかっただけのこと。サンプルはまだまだいる」

その女は、全身を黒いフードで覆っていた。
顔も分からない、だが重い声の女。

「それに」
「………ん?」

女の口元がニッと笑う。

「ミアもいる。だから私たちは必ず勝つ。ね、ジョルジュ?」
「そうだな……エル」

ジョルジュとエルは微笑した。

「それよりも、見たか? あの修士と剣士を」
「ええ。年の割には大した実力と行ったところね。
 もしかすると、私たちの計画を阻害する事になるかもしれない……?」
「それはないだろう。俺たちのことなど知らんだろうし、そこまで力が大きいわけではない。
 更に言うと、ミアが何か打っているというしな。俺はこの後ミアのところへ向う。お前はリスボンへ行ってくれ」
「リスボンへ……?」

エルが首をかしげる。

72 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:11:52.08 ID:uZKb4BQP0
「リスボンに住んでいるある女性を処分して欲しい。
 計画の邪魔になるとのことだ。これが女性の写真だ」

ジョルジュは懐をまさぐり、一枚の写真を取り出した。
ピントがあまりあっておらず、少しぼやけているが、美しい女性だという事は分かった。
金髪の巻き髪が特徴的な女性だ。

「名はツンと言うらしい。
 リスボンの道具屋の娘だと聞く。早急な処分をお願いする」
「ふふ………この娘、私より美しいんじゃないかしら。
 いいわ。すぐに処分してきてあげる。フフフフフ……」

エルは黒フードから唯一見える口をにやけさせたまま、甲高い笑い声を上げて宵闇へ消えた。
まるでそれは、エルが闇に溶けた様。
ジョルジュはそれを見届けた後、一息ついてエルとは逆側の方向へ歩き出した。


一陣の風が吹いた後、そこにジョルジュ達のいた痕跡は何もなかった。




第三話 完


73 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:12:34.61 ID:uZKb4BQP0
第四話「生命の危機」


風花の散る穏やかな日だった。
鐘楼からの音が響き、今日も穏やかな一日が始まる。
子供達は外に出て遊び、大人達はせっせと働き。
小さいながらも活気のある街、それがリスボンであった。
人々は自給自足で暮らしているわけではなく、意外と外交も多い。
言うなれば修道院からの聖具を作成依頼されるとか。

リスボンの郊外には川がある。
少し歩いた所にある、イーヴァの山頂から流れ、中流をリスボン、下流はリスボンより先にあるマドリアドまで続く。
その中流域に当たるリスボンだが、この部分だけが聖河と名づけられている。
その昔、トリーシャが体を清めるのに使ったという話だ。
過去の話なので真偽は分からないが、聖河で清められたものだけを教会は使う。
教会の数が増えつつある今、リスボンの仕事は大変だが、街自体はどんどんと豊かになっていくだろう。
今は小さいが、数年後は教会本部(現在は帝都にある)を置くほどになるかもしれない。
もしかすると、帝国に取り込まれてしまうかもしれないが。

さて、そんなリスボンの街で遊ぶ子供を楽しそうに見つめている女性がいた。
金髪の巻き毛が似合うその女性は、大きなリボンをつけていて、青いローブを羽織っていた。
ローブをしているからと言って、教会の人間というわけではない。
一般人の服装としても、最近はローブやら何やらは使われるようになっている。
教会ファッションと呼ばれている格好だ。最近の流行でもある。
だが、彼女は教会ファッションを意識しているわけでもなく、ただローブが好きだから来ているのだ。

74 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:13:53.32 ID:uZKb4BQP0
かといって教会が好きなわけではない。
神という偶像にすがる事を彼女は嫌った。だから、本当はリスボンが教会で発展するのも嫌だった。
そういう事があって、リスボンで聖具を作る道具屋の一人娘である彼女は父からその仕事を受け継ぐのを拒否していた。
適当な者を見つけて告がせれば良いと反抗すると、そいつをお前と結婚させるといわれた。
彼女だって、幸せな人生を送りたい。だから、自分が店を継ぎたくないという理由で適当な男に店を継がせて結婚させられるのは嫌だった。
だから、彼女は四六時中家を空けている。
彼女の時間の大半は子供といる事が多い。彼女は子供が好きなのだ。

そして、今日もそうだった。
遊ぶ子供達を見つめているだけの彼女。
なのに、とても幸せそうであった。
やがて、そんな彼女に男の子が駆け寄る。

「ツンお姉ちゃん」
「なあに、オズ」
「お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよ。僕らだけじゃつまんないよ」

ツンは微笑する。
優しい笑みだった。

「私はいいの。ちょっと今日は体調がよくなくてね。
 でもね、私はオズたちが元気に遊んでいる姿を見るだけで元気になるの」

オズはしかめっ面をしていたが、やがてにっこり笑い、

「分かったよ。じゃあ、僕遊んでくるね」

と言い、また子供達の輪の中に戻って行った。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:15:13.81 ID:OYt4euUD0
ボリュームあっていいなぁ。

76 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:15:14.59 ID:uZKb4BQP0
オズは、他の子供達よりもツンと親しかった。
それは、オズがツンが道具屋を受け継がなかった時の為の、道具屋の養子であるからだ。
オズは幼いながらもツンの父親に道具屋の心がけを教わり、日々その仕事を目指していた。
幼い子供を使ってまでこんな事をするのかと気が引けていたツンだが、オズが仕事を楽しそうにしているので、その感情も薄れてきていた。
おそらく、オズは道具屋を継ぐことになるだろう。
そうすれば、ツンはオズと結婚する事になるのは間違いない。
だからツンは複雑な気持ちであった。決して、ツンはオズのことが嫌いなわけではない。
ただ、オズにもツンにも自由に生きるための道があるのだ。
それを勝手な都合で決められるのは、何処かいただけないものがあると。
ツンはそう思っていた。だからと言って、ツンはオズを避けたりはしない。
姉として積極的にオズと親しみ、父親の政略の理不尽さをしっかりと理解してくれる子になって欲しかった。

「はぁ、私ったら最近憂鬱ね」

ツンは一人溜息をつき、空を見上げた。
青い空に浮かぶ白い雲。それと照りつける太陽。
何も変わらない一日。いつもと同じ一日。


それが今日壊されるだなんて、ツンは思ってもいなかった。






77 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:17:15.07 ID:uZKb4BQP0
「やあブーン。君にはこのテキーラをサービスしてやろう」
「僕はお酒は飲まないお。ドクオにでもやれお」
「ドクオは今療養中だろ。それよりもブーンの術が効いた事に僕は驚きだね」

ショボは自分で注いだテキーラを飲みながら言った。

「ま、杖の力だろうけど」
「は。僕の術の威力は日々上がっていくんだお」
「ぶち殺すぞ」


ここはリスボンの近くにある街の診療所だった。
ブーンの快癒でショボの傷は癒えたのだが、山賊三人を相手にしていたドクオの疲労は相当のものであった。
その為、ドクオは療養中。回復を待ってリスボンに向かおうと言う事だった。
が、そこまで治療に時間がかかるわけでもなく、今日の夕方にはリスボンへ出発できる予定だ。
この街からリスボンまでの距離は目と鼻の先。遅くとも、空が暗くなる頃にはリスボンへ到着できるはずだ。

そんな診療所内で、ブーンとショボは雑談しながら暇を潰していた。
本当に小さな町で、特に見るものもない。そんな所だったのだ。
だが、やはりそれだけでは草臥れる。

「暇だお。散歩してくるお」

ブーンが席を立ち上がる。

「あ、そう。まあ僕もちょっと疲れてるからここで寝ていることにするよ」
「勝手にしろお。昼間から酒なんか飲むなお」

ブーンはショボに相槌をうち、診療所の扉を開けて外に出た。


78 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:18:20.06 ID:uZKb4BQP0
「ああ、空気うめー^^」

リスボンはどちらかというと田舎だ。
山々が連なっていて、空気がとても美味しい。
僕の住んでいたあの修道院も田舎の部類には入るのだろうけど、山頂の空気はうまいとはいえない。
だから、僕は将来リスボンで暮らしたいと思ってしまった。
悪くないさ、そんな生活も。でも、僕はミルナ様に引き取ってもらった身。
ミルナ様の夢……僕を一人前の修士にすることを達成するまでは頑張ってみるかなあ。
その為にも、早くリスボンに行かなければ。

僕は伸びをして、リスボンの広場へ向う事にした。
なので、一歩踏み出したその途端。

「おっ」
「きゃっ」

女性とぶつかってしまった。

金の巻き髪が目立つ女性だ。
とても美しい顔立ち、田舎の女性はいいなあ。
クーも美人だけど、こんな子もいるならますますリスボンは悪くないかなぁ。
なんてくだらない事を思いながら、僕は女性に手を差し伸べる。
でも、

「逃げて! 早く!」
「え……?」

79 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:19:49.11 ID:uZKb4BQP0
金髪の女性は、酷く慌てふためいていた。
その慌てぶりは尋常じゃない。この表情は……本気だ。
一体何が………?

「どうしたんですかお、一体。それより大丈夫……」
「いいから逃げて! 早く逃げて! 貴方が死んでしまう!!」
「お、落ち着いて。落ち着いて。こんな時は青い空でも見ましょうお」

女性を落ち着かせるため、声をかける。
何と声をかければいいかわからなかったので、空を見上げてみた。
青い空、見ていると心が落ち着く。

なのに、その時だけ僕は空を見て、恐怖で心臓が破裂しそうになった。

「な………」

空には、生き物がいた。
羽根が生えていて、優雅に飛び回っている。
でも、鳥じゃない。そんなちっぽけなものじゃない。
大きい。それは鳥と比べてだが、僕と同じくらいの背丈がある。
人間が空を飛んでいるのだ……!?

「フフ……リスボンだけではなく、今度はこの街も巻き添えにするのかしら…?」

空を飛ぶ女が喋る。
やはり、その姿は人間。

80 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:20:54.24 ID:uZKb4BQP0
「黙りなさい! 貴方の好きにはさせない!!」

彼女が逃げろといっていたのはこの化け物が原因か……!
ああくそ、僕は能天気な奴だったんだな…。

「貴方は早く逃げて! もう私は逃げない!」

と思うのも束の間。彼女は僕を突き飛ばし、懐から杖を取り出す。
教会では見たことのない宝玉が杖の先端に取り付けられている。
元々、杖とは術力増幅器であるのだ。先端に付けられた宝玉によって力の大きさが変わる。
一級の杖ならばそれに見合う力があるし、五級の杖は増幅器の役割を果たさない程。
ピンキリに効果のあるのが教会の杖だ。だが、彼女のそれは教会のものではない。
杖の先端に付けられた銀の宝玉、僕は見たことがない。

やがて、彼女は印を結ぶ。
体がピリピリする。魔力に僕の体が反応しているのだ。
とても大きい魔力だ。彼女自身のものか、杖のものか。
兎に角、僕の目の前では彼女が作り上げた火炎が数秒のうちに巨大になり、羽根を生やした女へと飛んで行く。
が、女はそれを避け、女の子へ向っている! 女子は術に夢中で気がついていない!

「危ないお!」

咄嗟に女の子の体を跳ね飛ばして攻撃をかわす。
間一髪だった。なのに女の子は、

「危ないから下がっていて! 私が倒す!」

と僕に怒声をあげたのだ。
それには僕もたまらなくなった。

81 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:21:46.47 ID:uZKb4BQP0
「女の子一人で何言ってんだお。今だって僕が押し倒してなきゃ君は死んでいたお。
 何があったか知らんが今は僕を頼れお、僕は修士だお。僕だって術が使えるんだ」
「修士…? 教会の人間? なら尚更頼りたくない! 私は教会なんて大嫌いなのよ!」

「お喋りはいいかしら? 二人とも」

口論の中、翼の女が話しかけてきた。地に足を付けて。
全身を黒い布で覆っているが、フードの部分だけを外している。
ラベンダーと同じような鮮やかな髪が嫌に太陽に反射して眩しい。
一瞬だけ彼女を美しいと思ってしまったが、すぐに前言撤回だ。彼女は恐ろしい。
それも、チンポッポとは比較にならないくらいに……!

「私はエル。そこの彼女…ツンさんを処分しに来たのよ」
「私を処分…!? その為に貴方はリスボンを崩壊させたの!?」
「フフ……違うわ、貴方がいたからリスボンは崩壊したのよ」
「オズは……オズは私の所為で死んだって言うの!? オズだけじゃない、イウァンもエルテも私の所為で!?」
「ええ、そうよ…。貴方がいなければ、リスボンは崩壊しなかった!!」

彼女……ツンががっくりと膝を落とした。
放心している。目がうつろになり、焦点が定まっていない。
精神的なショックを受けているのだろう。一過性のものだとしても、戦闘続行は無理、か。

ならば。

82 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:22:56.12 ID:uZKb4BQP0
「おい、エルとかいったかお! 何があったか知らんが人殺しなんて縁起でもねえお!
 それにリスボン崩壊だとお!? 僕はリスボンに用事があったんだお! オルミア様に殺されるお…!」
「貴方の事情は知った事ではないわ。私と戦う気?」
「その通りだお!」

僕が動いて戦えば、ツンに魔手が伸びるだろう。
なので僕はツンの傍から動かずに印を結ぶ。
修士一級の杖が僕の貧弱な魔力を限界まで強化し、無数の氷の槍を作り出す。

「いいのかしら? 無闇に攻撃すれば、民家を破壊する事になるわ」
「――――――ッ!」

確かにそうだ。
エルの背後には住宅が立ち並んでいる。
僕が今ここで氷の槍を発射したとして、外れた分は民家に直撃するだろう。
先程ツンと戦っているときは、空中にいたからよかった。
だが、今エルは地上にいる。この場合、修士よりも剣士であるドクオの力が必要となる。
なのにドクオは今診療所にいるし……ショボは寝ているし…クソッ!!

「どうするのかしら?」
「こうするお!!」

僕は氷の槍を全てエルに放つ。
エルの胸ではなく、足元を目掛けてだ。
エルは難なくそれを後退して回避するが、その一瞬で僕は十分だ。
氷の槍が全て地面に突き刺さった瞬間、僕はツンを抱えあげて診療所の中に駆け込んだ。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:23:22.91 ID:OYt4euUD0
支援

84 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:23:53.94 ID:uZKb4BQP0
中に入ると、椅子の上でショボが間抜けな面をして眠っていた。
僕はショボをそこから引き摺り下ろし、ツンを変わりに寝かせる。
ショボはすぐに目覚めたようで、暫く僕を睨んでいたが、ツンを見て厳しい表情になった。

「何かあったんだな。手短に話せ」
「ドクオは動けるかお?」
「さっき僕が大きい快癒をかけた。多分大丈夫だろう」
「ショボは動けるかお?」
「問題ない」
「外に全身を黒い服で覆った女がいるお。ドクオが来るまで注意をひきつけていて欲しいお。僕はドクオを呼ぶお」
「分かった。そっちの女性は?」
「診療所の人にでも頼むお。早く行ってくれお! どうやら外にいる女、リスボンを崩壊させたらしいお!」

ショボは短くうなずくと、すぐに診療所の外へと駆けて行った。
僕はその後すぐにドクオをたたき起こし、無理やり腕を引っ張って外へ連れ出した。
勿論、ツンはドクオのいたベッドに寝かして。





85 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:25:04.41 ID:uZKb4BQP0
外ではショボとエルが交戦していた。
ショボの術は正確に軌道を変え、エルに当たらない攻撃は全て地面へ落下していく。
もっとも、エルには一つも攻撃は命中していないが。
エルはその全てを回避しているのだ。物凄い動体視力である……。

「ブーン、ドクオ!」

ショボは僕らの姿を見つけると後退して、エルとの間合いを開ける。

「随分な事になってるみたいだな。アイツ、リスボンを崩壊させたって?」
「らしいお。この街も危ないお!」
「だいぶ野次馬が増えてきたみたいだね……これはまずいよ」

ショボの指す先には、戦闘を目撃した人たちがワラワラと集まってきていた。
確かエルは、リスボンにいたツンの友人も殺害したんだっけ…?
だとすれば、確かにこれは非常事態だ。エルは街の人々の安否に関わらず攻撃をするだろう。

「ブーン、君は野次馬を逃がすんだ。僕とドクオはあの女と戦う」
「把握したお」

ブーンが人ごみに向って走っていく。
ドクオはそれを見るとこの街で新調した剣を抜き放ち、エルに刃先を向ける。

「エル、だっけか? リスボンを崩壊させたらしいな?」
「フフ……あんな街、私にかかれば造作もない……」
「マジなのかよ。チンポッポといい、最近わけわかんねえな……」
「チンポッポ……?」

エルが一瞬だけ怪訝そうな顔をする。
が、すぐに元ににやけ面に戻る。先程よりも、口元が引きつっていた。

86 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:26:18.52 ID:uZKb4BQP0
「そう、思い出したわ。あの時の三人組ね」
「え…? 僕らのことを知っている…? そうか、チンポッポを仕向けたのはお前だったのか!」

ショボは杖を持ち直し、火炎の術をエルに向ける。
エルは空中を飛びそれを回避するが、ショボの術による追撃は終わらない。
ショボは一流の修士であるがゆえに、放った後も術を操る事が出来る。
それによるリスクはショボ自信が動けなくなる事だが、放った技で自分を守れるので心配はない。
火炎は速い速度でエルを追い、詰めていく。

「フフ…いい炎ね。貴方も中々腕のある修士なのね。
 でもね、いつまでもこんな子供だましの術には構っていられないのよ」

エルが旋回し、炎を止めようと印を結ぶ。
その瞬間、低い声。

「術だけじゃない」

火炎の陰からドクオが飛び出し、エルの肩にダメージを与える。
エルも油断していた。まさか空中を飛ぶ自分を斬る者がいると思わなかった。
ドクオはショボがエルに注意を向けている間に民家の屋根へと上り、そこから斬り込んだのだ。
エルは動体視力がいい。だが、それは目に見えるものだけに限る。
だからエルは、死角からのドクオの攻撃に注意がまわらなかった。
肩から鮮血を流し、エルは地上へ落下する。

ドクオはそのまま自分も地面へ落下し、着地。
すかさずエルのもとに駆け寄り、喉元に剣を突きつける。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:26:54.83 ID:oWhV78G10
台詞の頭に顔文字つけれ
誰が何しゃべってるかわかんね

88 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:27:45.21 ID:uZKb4BQP0
「観念しろ」
「嫌よ」

次の瞬間、エルはその場にいない。
ドクオが切り裂いた左の肩の傷をもろともせず、また空中に飛び上がり、印を結ぶ。
だがその術の矛先はドクオやショボに向っているのではない。
何か別の者…………民間人! それに気付いたのは、ショボだった。

「いけない、ドクオ! アイツは街の人を殺す気だ!
 ブーンが退避させているけど、やっぱり一人じゃ限界っぽいね。喧嘩好きなバカがまだ残ってるみたいだ…!」
「クソッ! 間に合わねぇ!!」

ドクオが声を発した瞬間には、エルの放った火炎がもう市民の一人を焼き殺していた。
他の民間人が混乱しないわけがない。街は一瞬静まった後、パニックとなった。
人々は逃げ出そうとし、押し合う。
そして将棋倒しとなり、身動きが出来なくなる。
格好の的だ。エルがこれを見逃すはずがない!


エルの放った巨大な炎が、人の山に向けられる。
ショボがすかさず水の術を懇親の力で噴出すが、それでも炎は止まらない。
一瞬で水は蒸発し、残った炎だけが人ごみに直撃するかと思われた。

89 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:28:46.40 ID:uZKb4BQP0
だが、しなかった。
その炎は、先程よりも強力な水で覆い消されたのだ。

「なんだ、今の術の力…。僕でも消せなかったのに」

動揺するショボの視線の先に移ったのはツンだった。
銀色に輝く宝玉を付けた杖を手に持ち、エルをじっと睨んでいる。

「小癪な……! 私に屈辱を……!」

エルは、今度はツンに向って攻撃を仕掛ける。
エルの背後にいきなり黒雲が現れたかと思うと、一閃の電光がツンへ向った。
だがツンは動じない。それを睨みすえ、呼吸をおいて印を結ぶ。
次の瞬間、ツンの杖の先から地面に向って光が伸びると、街の石床が壁となりツンを護った。
その常識はずれな術力に、ショボは開いた口が塞がらなかった。

「エル! 私は貴方を許さない! オズを……リスボンを返せ!!!!」

間をおかずにツンが雷撃を放つ。
その雷撃は先程のエルのそれとは比較にならない。
黒雲はエルのものよりも二周りは大きい。
そして一瞬黒雲が光ったかと思うと、次にそこにいたのは身を焦がしたエルの姿であった。
翼をぼろぼろにし、どたりと地面に倒れこんだ。

と、思った途端にエルの姿はぼんやりしていった。
最初のうちは輪郭がハッキリしていたが、だんだんと体が透けていく。
そして次に気付いた時、そこにはエルの姿はなかった。
それをみて、初めてエルに逃げられたのだと気付く。

90 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:29:19.11 ID:uZKb4BQP0
「うぅ…」

今度は、ツンが倒れた。

「ツン!」

ブーンがツンに駆け寄り、快癒をかける。
呆然としていたショボンもハッとすると、それに加わる。

一方、ドクオだけは心の中にあるもやがどんどん大きくなっていくのを感じていた。
先程のエルといい、チンポッポといい。
おかしな事が増えている。そういえば、野盗等が頻繁に出没するようになったのも最近のことだ。

「何かが………動いているのか」

ドクオは剣を鞘におさめ、遠くを見て一人悩んだ。


第四話:完


91 名前:豆男 ◆X5HsMAMEOw :2006/09/10(日) 18:30:26.91 ID:uZKb4BQP0
今回の投下はここまでです^^;;;
僕の調子がよければ今日の夜に五話は出来るです^^;
もし今日五話が出来なかったら来週あたりに五、六話投下します^^;

ではでは(^^)ノシ

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:34:35.37 ID:OYt4euUD0
面白かった。乙
また楽しみに待ってるから。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:36:51.51 ID:/lzTnSA70
すげーボリュームだな


94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:39:09.07 ID:LGZf1P4LO
相変わらず話を書くのが上手い

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/09/10(日) 18:43:06.26 ID:vw8ryi5f0
(・∀・)イイ!!


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